第三話 守の現状
玄関の鍵を閉めて改めて外へと一歩踏み出す。玄関の鍵を閉めたのに特に深い意味はない。ただ、なんとなく、母が他の人を襲う可能性を減らしたかったからだ。
こうして動き出した訳だが、守がしなければならない事は多岐にわたる。この世界の現状を知る事、幼馴染の現在の様子。そして一番大事なのは、守自身の身体の事だ。
まず、メディアが機能していない可能性の高いこの世界の現状を知る為には、生存者から情報を得なければならない。だが、ここで問題になってくるのが、守がゾンビである事。肩の傷口は服装で誤魔化せばなんとかなるかもしれないが、そもそも会話が出来ない。そして肌の色が明らかに人間の色をしていない。顔色が悪いどころか死人がそのまま歩いていると勘違いされてしまう。まぁゾンビなので死んでるのは勘違いではないが……。
まぁ世界の現状を知る事は後回しにしよう。どうしようも出来ない事はもがいてもどうしようもないのだから。臨機応変にってやつだ。
次に幼馴染の様子だが、これは自宅に向かえばいいと守は考えている。だが、これには下調べが必要だ。周囲の状況もだし、守の予想では自宅が一番安全なので立て籠ってるだろうと考えている。だが、ひょっとすると帰宅出来ず、どこかに隠れている可能性もあるので決めつけるべきではなかった。どちらにせよ、それを確かめるには幼馴染の家へ行くしかないので、色々必要な物資を用意しつつ、目的地となる場所をとりあえず幼馴染の家にした。
そして、一番大事な守自身の事だ。
「ア……イ……ウ……」
(やはりしゃべれないか)
守が噛まれたのは肩なので、外傷が原因でしゃべれなくなった訳ではなく、ゾンビそのものにしゃべる機能を失わせるような何かがあるのか。それとも他の原因があるのか、それは守には判断が出来ない。とりあえず少しでもしゃべれるように移動中は発声練習をこなすとしよう。
次に今までとの感覚の違いだ。まず、痛覚の有無。先程まだ慣れない身体の変化に対応出来ず、転んでしまったあの時、守にほとんどの痛みがなかった。当たった感触はあったが、ただそれだけだった。痛覚を失った代わりに、視覚と嗅覚が鋭くなってる。
実は、今もなんとなくではあるが、匂いで生存者がいる場所を守にはわかってしまっている。ただ、現状の自分では接触する事が出来ない為、放置している。今の守では、友好的にするどころか、一方的に攻撃されるだけでリスクしかない。現状では生存者と関わったとしていい事は一つもないだろう。
変化と言えば、動きも遅い。走る事も出来ないし、歩き方もウサギとカメのカメにすら負けてしまう位、のんびりとした速度だ。周囲のゾンビがもっと早く歩けているので、次第に動けるようになってくるかな? と淡い期待を抱いている。というより動けないと幼馴染を助けられない。
そして守は生きると決めたきっかけ。ゾンビに襲われないというアドバンテージがどこまで働くかの確認だ。今のところ隣を歩いていてもどのゾンビも気にする様子はない。だが、これがこちらから攻撃した場合にどうなるのか?
これを検証するのは簡単だ。
ガシャン!!
適当に目に入った家の正門に阻まれているゾンビに向かって、思いっきりパンチをくらわせた。殴られたゾンビは思いのほか吹き飛び、玄関までにぶつかって漸く止まる事が出来た。
(力が強くなってる……?)
ゾンビになる前の守が、運動部のエースだった! とか、格闘技をしていた! など、運動神経がよかった訳ではない。
むしろ母親に似て温厚な性格だった為、喧嘩とは無縁な生活だったのだ。それがパンチ一発で数メートル吹き飛ばせるのは異常だと守は感じていた。
(痛みがないから色々感覚が鈍ってるのかな……?)
殴った右手に痛みはない。ただ、殴った事で殴った部分の手の皮膚が破れていた。痛みが無い分、本来セーブする力を制御出来ていないのかもしれない。とりあえず守はそう判断した。
この時守は、温厚な性格な筈なのに躊躇なくゾンビとはいえ、他人を殴っている異常性に気付いていなかった。
そんなこんなで歩いている内に最初の目的地にたどり着いた。まだ幼馴染の家ではない。その前に色々と準備をしなけばならないからだ。
そう、最初に辿り着いた場所は『ホームセンター』。ここなら大抵の物であれば用意出来る、万能スポットだ。
守は警戒する様子もなく、綺麗な右手で開かなくなった自動ドアをこじ開け、中へと入っていくのだった。
――――――――――――――――――――――――――――
もし、少しでも面白かった! 応援してもいいよ!! って方いましたら、フォロー、応援、☆評価をよろしくお願いします。
評価される事、それが何より執筆への励みになります。今後も精一杯面白くなるよう頑張りますので、是非、よろしくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます