第11話 アシノコダンジョンへ
関所には列ができていた。襲うにしてもこればかりは夜まで待った方が良さそうだ。そこで俺は提案してみる。
「なぁ。アシノコ行ってみないか?」
「は?アシノコだと」
俺の提案にレイシーは疑問を提示する。
「ねぇ、アシノコって?」
ジルは話についていけないようだった。
「アシノコはダンジョンのことだ」
「ダンジョン!」
俺が答えるとジルは目を輝かせた。冒険者といえばダンジョン攻略だからな。冒険者に憧れていたジルならきっと反応するだろうとは思っていた。
「ほら。関所見た感じさ、閉門の酉の刻まで並びそうだろ? なら、関所を襲撃するのは戌の刻以降になる。まだそれまで半日も空いてる」
「それはそうだが……」
世界大会オリエンスは西方の神国ヤシロで開催される。時間的にトウカイドウを東へと戻ることはなかなか難しい。ならば、各国に一つずつあるダンジョンを制覇して行くのは面白いのではないだろうか。それに、俺はそろそろ戦いがいのある戦闘をしたいんだ。
俺はまだ、この世界に来てから一回も血が燃えたぎるような熱い戦いをしていない。だから俺は二人に否定されても一人でアシノコに行くだろう。
「だが、アシノコダンジョンは未踏破の天級ダンジョンだったはずだ」
レイシーは顔を曇らせてそう言った。確かにそうだ。ダンジョンには格付けがある。下から初級、下級、中級、上級、地級、天級、神級だ。
だが、俺はニヤリと微笑んで応える。
「だからだよ。だからこそ攻略する価値があるんじゃないか!」
「いや、しかしだな……」
「いいじゃない!行こうよ!」
ジルは乗り気みたいだ。やはり冒険者に憧れていた少女なだけはある。血が騒ぐのだろうか。それとも、単純にアシノコダンジョンに行きたいだけかもしれないけど。
「よし、じゃあ決まりだな」
「待て。私はまだ同意していないぞ!」
◆
俺たち三人はアシノコダンジョンまでやってきた。だが、未踏破ダンジョンなだけあって、人はあまりいない。というか誰もいなかった。
「本当にここなのか?」
「ああ、ここのはずなんだが……」
建物はゲームで見たのと同じだ。だが、一つだけ違う点がある。アシノコダンジョンの入り口付近に来たものの、誰の姿もないのだ。そもそもダンジョン入り口に受付がいるものなのだが……。まぁ、いっか。とりあえず入ってみよう。
「ちょっと待て」
レイシーは何か言いたげにこちらを見ている。何なんだろう。
「どうした?」
俺が訊くとレイシーは話し始める。
「天級以上のダンジョンは所有するクニの許可がないと入れないと聞いたことがある。もしかしたら、クニに申請する必要があるのかもしれない」
「まじ?」
俺は考える。ゲームでは一つ下のランクである地級ダンジョンを3つ以上攻略することが条件だったはずで、確かに攻略証を持っていないと入れなかったような。
「待て。アシノコダンジョンは未踏破だと言ったよな? 67個あるダンジョンのうちいくつが攻略されているんだ?」
「67? ダンジョンは63個だぞ」
「は?」
俺は戸惑う。いやいや、ダンジョンの数は67だ。この俺が『天我原』の知識で間違うことなどあり得ない。だが、レイシーは63個だと言った。今まで見てきたレイシーの言動やそこから推測される性格を考慮しても、このタイミングで嘘をつくハズもないし……。
足りないダンジョンの数は四つか。そうか。もしかしたらこの世界では未発見のダンジョンがあるのか。おそらくそうなんだろう。それは後々確認するとして、俺は再度レイシーに訊く。
「なら、そのうちいくつが攻略されている?」
「確か、50とかそこらだったはず」
俺は唖然とした。神級ダンジョンは三つある。イセノクニの『イセノコトワリ』、リュウキュウノクニの『ナギノコトワリ』、カイノクニ・スルガノクニにまたがるダンジョン『フジノコトワリ』だ。そして、天級ダンジョンは七つある。
正直ダンジョンについては、天級からダンジョンはかなりの難易度になるから、この世界の人がクリアできていないのはまだ分かるんだ。
だが、レイシー曰く50くらいしかダンジョンは攻略されていないという。ということは、天級の一つ下の地級のダンジョンの中にも攻略されていないダンジョンがあるということだ。
「なぁ、天級ダンジョンは攻略されているのか?」
俺は恐る恐る訊いた。
「天級ダンジョンで攻略されているのは一つだけだ。シコク地方のトサノクニにある天級ダンジョンを攻略したのが、数々の伝承になっているタケミカヅチだと言われている」
「タケミカヅチか……」
その名を俺は知っている。元ネタは日本神話に登場する武神だ。その力の強さはまさに絶大。あの【虚空刀ミナギ】の使い手スザクよりも強いという設定なのだから、それは天級をクリアしてもおかしくはない。
だが、彼を持ってしても何故神級ダンジョンは攻略されていないのだろうか。
俺が思案していると、レイシーが不思議そうな顔をして訊いてきた。
「どうかしたのか?」
俺はレイシーの瞳を見て思案する。うん。でも、今は悩んでいても仕方ないな。俺は考えを切り替えることにした。
「いや。大したことではない。それよりどうやってダンジョンに入るかだな」
「そもそも、入らなければいいのではないか?」
「レイシー」
弱音を吐くレイシーにジルがジト目を送る。
「分かりましたよ。行きましょう」
レイシーは仕方なく頷くと、ダンジョンの入り口の方へ意気揚々と歩き出しだジルに付いていく。俺も駆け足でその後を追った。
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