第12話 チート技

 アシノコダンジョンの入り口の扉の前に立つ。扉には鍵がかかっていた。


「びくともしないな」


レイシーが呟いた。扉は開けようにも開かない。三人で協力して力づくで開けようと試みたが、無理だった。


 うーん。なにか方法はないかな。


 微動だにしない扉の前で立ち往生するしかなかった。だが、あることを俺は思いつく。


 この世界はゲームの世界であって、ゲームと全く同じではない。例えば飯を食えば香りも味もする。要はゲームよりも現実に近いんだ。なら、もしかして、ゲームでは破壊不能だった扉も壊せるのではないか?


 俺はこの前封印することに決めたばかりのアレをインベントリから取り出す。


 漆黒の刀【虚空刀ミナギ】。お前なら行けるのではないか。封印してすまんかったと、俺はミナギに心のなかで謝った。


「それは刀か?」


 ミナギを物珍しそうに見ながらレイシーが尋ねる。


「あぁ、そうだ」

「ほう。それもかなりの業物のようだな」

「わかるか?」


「まぁな」とレイシーは得意げに頷いた。だが、この刀、そんじょそこらの業物とは訳が違うんだよな。


 俺は刀を手に取り、鞘と柄に手をかける。そして言う。


「この刀はミナギたんのために!」

「え、ミナギたん?」

「ミナギとは誰だ?」


 刀身が鞘から抜けるとともに、気の抜けた疑問の声が二人から発せられる。まぁ、予想していたけど。


「あぁ。今は亡き永遠の恋人だ」


 設定ではそうだったはず。俺はロールプレーを演じたかったのが半分、冗談半分でそう言った。だが、何故か二人は黙り込んでしまった。少ししてレイシーは頭を下げた。


「これはすまないことを訊いた」

「あ、別にこれはだな――」

「そうだったんだ。セカイにもそういう人がいたんだね」


 ジルまで誤解している。


「いや、ちょっと待って。これはふざけたというか」

「言うな。それ以上は」


 レイシーは俺の言葉を制した。その顔は悲痛なものを浮かべている。ジルにいたっては涙ぐんでいる。俺は諦めることにした。


「わかったよ」

「……しかし、どうするのだ? その刀でどうにかできるのか?」

「やってみるさ」


 今の俺のレベルだと、魔力総量的に一度しか使えない技がある。俺はミナギを構える。すると、刃の周りに深海のように浅黒く青いオーラのようなものが現れた。それを見たレイシーとジルは目を見開く。


「なんだ、あれは……」

「綺麗……」


 そんな声を漏らした二人を無視し、俺は扉めがけてミナギを振り下ろす。日本神話を彷彿とさせるそのスキル名は――


「『ナギナミ』ッ!」


 振り下ろされた刀から放たれたのは斬撃ではなく津波のような空間の歪みであった。それはアシノコダンジョン入り口の扉へと押し寄せて、それを木っ端微塵に破壊する。扉は物理的に開いたというか、むしろ大穴が空いたという感じだった。これ、チートだよな。


「じゃあ行くか」


 そう言う俺の顔を、ジルとレイシーは引きつった顔で見てくる。


「どうした?」

「いや。前からセカイ殿には凄みを感じていたが、これほどとは」


 レイシーが感心したように言う。そうやって褒められると照れるな。俺は「そうか?」と誤魔化した。


「ま、行くか」

「え、ええ。行きましょう」

「仕方ないな」


 頷き合うと俺たちはアシノコダンジョンへと歩みを進めるのだった。

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