第7話 葛藤から決意へ
件の『王女釣り』から一週間が経った。その頃には俺はレベル22になっていたし、もう王都にいる理由もほとんどない。
俺は宿屋の自室で、ベッドに横たわりながら、雑貨屋で買った世界地図を眺めていた。
次はどこに行くか……。東西南北。どこから行ってもいいんだよなぁ。
まぁ、それは事が解決してから決めればいいだろう。俺は部屋の外で鳴った床の軋む音を聞き逃さなかった。俺は椅子に腰掛けて足を組む。
コンコン。ドアがノックされる。
「鍵は開けてある」
「失礼するぞ」
入ってきたのはやはり女騎士だった。だが、オフなのか、鎧は着ていない。いつもは髪を結んでいるからか気づかなかったが、美しいとブロンドの長髪をしていた。
「何の用だ?」
「とぼけるな。ジル王女の件だ」
「分かってるよ。で、どうするんだ?」
俺が女騎士の目を見つめて訊くと、女騎士はしばしの沈黙の末に話し始めた。
「セカイ殿があえて王女を見つけたと報告したのは、王女のためだったのだろう。だが、私はサガミノクニに仕えるもの。いくら王女のためとはいえ、私には選べない。すまない」
「そうか。それは残念だな」
俺は心底不快そうにため息を吐く。
「だから、そのだな。借りは返したい。だが、王女を連れ出すという願いは叶えられない。どうか、私の体で満足してはくれないか?」
うーん。上目遣いの女騎士の体を見回す。結構この人、鎧の上からだと分からなかったけど、引き締まったいい体してるんだよな。顔もそれなりに美しいし。
だが、俺の目的はなんだ? 女を抱くためにこの世界に来たわけではない。俺は足を組み直して言う。
「生ぬるいな」
「な!」
「本当に生ぬるい。あなたはジル王女直属の騎士だったはず。だが、社会での立ち位置を気にしてばかりで、仕えているジル王女のことは何一つ考えていない!」
「そ、そんなことはない! 私はジル王女のためを思って!」
「なら何故だ? 何故、ジル王女に自由を与えようとしない? もし、仮にジル王女が王族としての責務を放棄して、どこか遠くに逃げようとしたらどうするつもりだ?」
「それは……」
女騎士は言い淀む。
「これではまるで奴隷ではないか! それがジル王女の意思を無視した結果ではないのか!」
「それは……」
「俺はお前のような中途半端な女を抱く趣味はない!」
女騎士は再び黙り込む。そして、しばらくすると、ゆっくりと口を開いた。
「確かにそうだ。私が間違っていたようだ。すまなかった。これからは心を入れ替えて、ジル王女のために尽くそう」
「分かった。なら、その覚悟を見せてみろ」
俺は立ち上がり、女騎士に近づいていく。女騎士の顔は恐怖に引きつっていた。
「ま、待ってくれ! 一体何をすればいいのだ!?」
無言のまま俺は女騎士の胸ぐらを掴むと、そのまま壁に押し当てた。女騎士の顔は絶望と恐怖に染まっている。
「な、何をするのだ?」
俺は女騎士の髪に触れる。戸惑いつつも、女騎士は目を瞑った。頬は朱く染まっている。
「あ、あの……。セカイ殿……?」
女騎士は薄っすらと目を開いて訊いてきた。
うん。勢いでこうしてみたものの、何も考えてなかったわ。どうしよ。
俺は無言のままあたふたしている女騎士の青い瞳を見つめる。が、この後のことなんも考えてない。
すると、女騎士は何かに気づいたような表情をした。
「セカイ殿。貴殿の意図が分かったぞ」
「あぁ、そうか」
よく分からないけど、なんか女騎士の表情が決意に満ちてていい感じだし、俺は合わせて頷いた。
「私はジル王女の盾であり剣だ」
「腹が決まったようだな」
胸を張って女騎士は語る。俺はそんな彼女に右手を差し出す。
「改めてよろしく……。そうだ。まだ名前聞いてなかったな」
「そうだったか。私はレイシー・ライラルだ。一応騎士爵だ」
「レイシーか。いい名前だ」
俺たちは決意の握手を交わした。
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