第5話 早い者勝ち
「何? 王女を連れ出すだと?」
女騎士はさっきまで大金が置かれていた机を力強く叩いた。
「そうだけど。なんか文句でもあるのか?」
「あぁ、あるな。国家反逆罪と見なされるぞ?」
女騎士は眉間にしわを寄せて、詰め寄ってきた。
「まぁ聞いてくれ。 ジル王女は冒険者として旅することに憧れている。冒険が彼女の夢なんだ」
「それは知っている。だが、連れ出すなんて不可能だ。第一、今回の件で警備はより一層強化されている。この国にジル王女は必要不可欠だからな。それに、見つけ出した張本人のお前が何故それを言うか」
彼女の言っていることも確かに一理ある。やはり一筋縄ではいかないか。だが俺にも策はある。
「そこだよ。行方不明の王女を見つけ出した俺たちだからこそ、疑われない。どうするのが一番ジル王女の幸せなのか、考えるべきだ。それに騎士なのに、なんでもする、という言葉を反故にするのか?」
「それは……」
女騎士は考え込む。
「俺はあと一週間あの宿に泊まるから。じゃあ」
俺はそう言い残して、王城から去った。
◆
よし。狩りに行こう。
その前に準備しよう。
もう、王女とか、クエストとか、ギルドとかどうでもいいんだ。全ての力の頂点を決める大会【世界大会オリエンス】。俺の目標はその大会で一位を取ることだ。
大陸の中央、ここからだと西方の神国ヤシロにある神国立闘技場に世界中の猛者が集う。宿屋で確認した暦から、今は春だと分かっている。年に一回、初夏に開催されるその大会まであまり時間がない。それまでに参加条件を満たさなければ。
「よう、おっちゃん」
「お、セカイ!どうだ? 冒険者稼業は順調か?」
「順調だよ」
「そうか。それはなにより。パン食ってくか?」
「おう。パンを買いたい。一週間分だ」
おっちゃんは戸惑ったが、俺がちゃんと代金を支払うと、一週間分のパンを渡してくれた。俺はそれをインベントリにしまう。
「おっちゃん、ありがとな」
「おう。またいつでも来いよ」
俺はおっちゃんに手を振って別れを告げると、今度は同じ通りの武器屋に入る。
「いらっしゃいませ」
店に入るとすぐに店員が声をかけてきたので、俺は店内を見回してからカウンターの方へと歩いていく。
「ちょっと聞きたいんだけど……」
「はい、なんでしょう?」
俺が話しかけると店員は営業スマイルを浮かべた。
「一番高い刀、見せてくれない?」
「はい?」
店員は小馬鹿にしたように笑った。そりゃそうだろう。俺は新米冒険者然とした格好だからな。
ドン。
「これ。金はあるからさ。奥にあるやつ見せてくれない?」
俺は金貨の入った袋をカウンターの上に置く。店員はそれを恐る恐る確認する。
「これは……!?」
「いいからさ。ほら、早く!」
「はっ、はい! ただいま!!」
慌てふためく店員を見て俺はニヤリと笑う。こうでもしないとお目当ての刀は見せてくれないだろうしな。
しばらくすると、店主らしき人物が大きなケースを持って戻ってきた。店主は慎重にケースを開ける。
「こちらになります」
「へぇー」
俺は感嘆の声を上げた。だが、内心叫びたいほど歓喜していた。それは漆黒の刀だった。鞘に入った状態でも分かるくらいその刀からは尋常ではないオーラが出ている。
「手にとってみても?」
「もちろんですとも!」
俺は許可を取るとその刀を慎重に手に取る。やはり! 思った通りだ! これは空を斬るという伝説の刀【虚空刀ミナギ】。
『天我原』一周年記念で開催されたイベントの報酬。俺は今でも覚えている。
この世界にはかつて虚空魔法という魔法があったとされている。しかし、その使い手は少なかったため、あまり有名ではない。
だが、この世界で数少ない虚空魔法の使い手が使っていたとされる伝説の武器がこの【虚空刀ミナギ】である。
そして、俺が歓喜する理由はこれだけではなかった。
他でもない、【世界大会オリエンス】で一位に君臨し続けていた男が愛用していた刀がこの【虚空刀ミナギ】である。
なぜこんなものがここにあるのか?
なぜ既に売られていないのか?
答えは簡単だ。
まだ、この世界ではそのイベントは開催されていないからだ!
「この刀。値段は3000万圓なんですが、売るのにちょっとばかし条件がありまして……」
そう。この刀を得るには条件がある。
「この刀、抜けないんですよ。ですが、この刀を抜ける者にしか売ってはならないという先代からの決まりがありまして」
「そうか……」
この刀を抜くのに必要なのは合言葉だ。この刀を鞘から抜くにはある言葉を唱えなければならない。その合言葉を知るためには、『天我原』史上最難関だったと言われることもあるクエスト『世界樹の下には』をクリアしないと行けないのだ。俺はまだイベント当時は始めたてで、手も足も出なかったそのクエスト……。だが、今の俺はその言葉を知っている!
俺は漆黒の刀を手に取って、柄と鞘に手をかける。そして、唱える。
「この刀はミナギたんを守るために!」
カチャ。その刀身が顕になる。
「ま、まさか!」
店主は口をあんぐりと開けて驚いている。
「これでどうだ? 売ってくれるか?」
「は、はい! 売りますとも!」
俺はきっかり3000万圓払った。そして、念願の、喉から手が出る程欲しかった【虚空刀ミナギ】を手にしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます