第3話 冒険者登録
サトウベーカリーのおっちゃんに連れられて、俺は冒険者ギルドにやってきた。ノエルちゃんはお留守番だ。
「おおー! ここが冒険者ギルドか!」
冒険者ギルドは、思っていたよりもこじんまりとした建物だった。ゲームではあまり使ってなかったからというのもある。
二階建ての木造建築で、両開きの扉の上には『冒険者ギルド』と大きな看板が出ている。
おっちゃんに案内されて中に入ると、そこには様々な格好をした人達がいた。
まず目につくのは剣や槍といった武器を持っている人だ。次に杖を持った魔法使いっぽい人や、弓を背負っている人もいる。
俺のように安っぽい短剣を携えている人はいないようだ。俺たちが珍しいのか、ちらほらと視線を感じる。
他にも、隣接する酒場のカウンターに金属鎧を着た大柄な男達がいると思ったら、その横の少し離れたところに一人、ローブを身にまとい、フードを深く被る女もいた。俺はその女を見て、やはりここはゲームの世界と同じだと確信して安心した。
中には子どももいて、小さな体に見合わない大きな斧を担いでいる。俺もあんな風に見られているのかな。キャラは十代後半って設定だったし。
俺は先を行くおっちゃんの後をついて行く。
「よう。新規登録だ。よろしく頼む」
おっちゃんが受付にいた女性に声をかけた。
女性は二十代前半くらいだろうか。茶髪のショートヘアがよく似合っている。
「はい、新人さんですね。ではこちらへどうぞ」
俺を見ながらそう言った受付嬢は、奥の部屋へと歩いていく。俺たちはその背中について行った。
通されたのは応接室だった。ソファーが二つ向かい合わせに置いてあるだけの簡素な部屋だが、調度品などはしっかりしている。
俺たちが腰かけると、受付嬢が話を切り出した。
「さて、まずは登録料として五千圓頂きますね」
「あいよ」
隣に座ったおっちゃんが懐から金を出した。
「いいんですか?」
「あぁ。メロンパンの代金以上に働いてくれたからな」
「ありがとうございます」
俺は素直に感謝しておいた。好意は受け取っておくに越したことはない。
「それでは、まずはこの水晶に手を置いてください」
受付嬢がテーブルの上に置いたのは、何の変哲もない丸くて透明な水晶だ。
「こうですか?」
言われた通りに手を置く。すると水晶は青く光った。
「犯罪歴はないみたいですね。では、こちらに必要事項を記入してください」
差し出された紙には名前や年齢などを書けば良いらしい。名前はセカイ。年齢は前世と同じ17歳のままでいいか。特に難しい項目はなかった。
「……はい、これで結構です。最後に血を一滴いただきたいのですがよろしいでしょうか?」
「え? どうしてですか?」
「魔道具を使ってあなたを鑑定します。それによってあなたの能力値がわかります」
ふむ、なるほど。ゲームではステータスをメニューから確認できたが、この世界だとそういうのはないみたいだからな。こうやってステータスを確認するのか。
しかしここで問題が一つ発生した。
血、怖い。
「あの……。血が出ないやつってないんですか?」
「そうですね。鑑定眼をもっている人がいればいいんですが……」
「そうですか」
俺は自身の短剣を鞘から抜いた。
剣先を指に当てる。
世界一位になるんだろう?
こんなことで怖気づいてどうするよ。
俺は自分に言い聞かせた。
「えい!」
◆
「これで大丈夫です。少ししたらギルド証を渡すので、呼ばれるまで、待合所でお待ちください」
「わかりました」
苦笑いでエルザさんにそう言われた俺は、待合所の空いている椅子に腰掛ける。すると、おっちゃんが俺の背中を叩いた。
「まぁ、なんだ。気にすんな」
「はい……」
「傷跡も残らねぇんだし」
「はい……」
「能力値も悪くなかったんだし」
「はい……」
あれは仕方ないよ。今まで、自分の指なんて切ったことないからさ。そりゃ加減分からないよね。もう、ドバっと切って、ドバっと血が出て、書類血だらけよ。担当してくれたエルザさん引いてたよ。もう、ドン引きだったよ。おっちゃんが意外にも回復魔法持っててよかったよ……。
しばらく俺が落ち込んでいると、先ほど受付をしてくれたエルザさんがやってきた。
「それではギルド証をお渡ししますね。……はい、こちらがセカイ様のギルド証になります」
渡されたギルド証には名前と登録ギルド、登録日、それと冒険者ランクFという文字が書かれているだけだった。
「そのギルド証は身分証明書にもなりますので無くさないようにして下さいね」
「あの、このギルド証って他の街とかでも使えます?」
「えぇ、使えますよ。ただし、再発行にはお金がかかるので失くさないように注意して下さいね」
「分かりました」
「他に何か質問はありますか? 無ければ早速依頼を受けてみてもいいと思いますけど……」
「いえ、質問は特にありません」
「そうですか。では頑張ってください!」
エルザさんは腰を折ると、受付の方に戻っていった。
「じゃあ、ここでお別れだな。セカイ」
名残惜しそうにおっちゃんが言う。
「そうですね……。本当にありがとうございました」
「また、パン食いに来いよ?」
「はい。約束します」
「おう! じゃあな」
おっちゃんは踵を返してギルドの出口へ歩いていった。その背中は大きく見えた。
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