第一部 サガミノクニ革命篇
第一章 お忍びの姫編
第2話 リボーン
俺は夢にまで思った『天我原』の世界へ生まれた。
ここはサガミノクニの都にある公園だ。服を確認すると、初期装備のようだった。全身を確認したいな。
俺は知り尽くした都を行く。とても新鮮だった。お、あの花屋。店員さんが可愛いんだよなぁ。確かマリアちゃん。
あ、あのパン屋。確か、サトウベーカリーだったっけ。俺は強面の店主を想起する。店はガラス張りになっていた。俺はガラスに近寄って自分の姿を見る。
やはり、ヴィジュアルは使ってたアバターのまんまだ。初期装備が懐かしい。それにしても、俺、カッコ可愛いすぎるな……。キャラ設定に丸一日かけたもんなぁ。
「あのぉ。買ってきますか?」
「え?」
店の入口に立つ少女が話しかけてきた。頬を紅潮させた少女は上目遣いで訊いてくる。
「可愛い!」
「か、かわいい!そんな……」
少女は目をパチパチと瞬かせる。
「君は?」
「わ、私はサトウベーカリーの、ノエルです……」
そこまで言うとノエルちゃんは俯き、そして顔を上げて言った。
「この、焼きたてメロンパンがオススメです!」
そう言ってノエルちゃんは抱えている籠の中身を見せる。ゲームではこんなキャラいなかったが、恐らくは看板娘なのだろう。そこには確かに焼きたてのメロンパンがいくつか入っていた。
正直、俺はお腹が空いていた。病院ではろくな飯が食えなかったし、パンを食うのも久しぶりだ。
「一つもらおうかな」
「はい!どうぞ」
俺はメロンパンを受け取る。やばい。めちゃくちゃ美味そう。ふかふかそうだし、甘い香りもする。ゲームだと食事はシステム上のもので、流石に味や香りまで再現されてなかったからな。
俺は本能の赴くままにメロンパンに齧り付いた。メロンパン特有の甘い香りと噛みごたえがありつつも柔らかなパン。もう最高だった。こんなに美味いパンを食べたのはいつぶりだろうか。
だが、俺は一つ失態を冒した。
「おお、うまい!」
「ありがとうございます! では、代金をお願いします!」
「あ、そうだった」
俺は慌てて財布を探す。
あれ、待てよ。冷や汗が頬を伝う。
確か、『天我原』って、初期の所持金0圓じゃね?
しまった! 長らく病院に居たせいで、支払いという概念を放念していた。これじゃあ無銭飲食じゃないか。
「すまん。俺、今持ち合わせないみたいだ」
「え、それは……」
ノエルちゃんは困り始める。
「ちょっとここで待っていてください!」
ノエルちゃんは足早に店の方に戻った。嫌な予感がする。
「何ぃ!? 無銭飲食だって?」
中からは怖もての、親の顔よりも見たことのある店主が出てきた。
「おい、お前さん。金ねぇのか?」
「はい……。すんません」
「ふん。見たところ、下っ端の冒険者じゃねぇか」
店主のおっさんは俺を品定めにするように体中を見回した。ゲームの時は定型文しか言わなかったから、怖くもなんともなかったが、このリアルの世界だと迫力あるな、この人。
「クソ。仕方ねぇなぁ。金がねぇなら働け。一刻でいいからよぉ」
俺は一刻、この世界での二時間の間売り子をやることになった。ノエルちゃんと一緒にパンの入った籠を持って、町を歩いてパンを売っていく。
「冒険者さんは、なんて名前なんですか?」
パンを売り切ったところでノエルちゃんが訊いてきた。
「俺? 俺はセカイだよ」
セカイはキャラネームで、本名は別にあるけど、ゲームの世界なんだからこれでいい。それにセカイって名前、けっこう気に入っているし。
「どうして無一文なのですか?」
ノエルちゃん。結構痛いところついてくるな。
「それはなぁ……。説明すると難しいというか……」
「あの、話したくなかったら、大丈夫です!」
ノエルちゃんはそう言うとはにかんで誤魔化した。
◆
「何ぃ? 冒険者なのにギルドカードがないだとぉ?」
「そうだな……ないわ」
別にギルドカードなくてもいいんだけどな。でも、最初の方は稼ぐのに必要か。如何せん、当面の課題は金集めなのだから。
でも、冒険者ギルドとか国とかと正直関わりたくないんだよなぁ。俺はこの世界で一位にならなくてはならないから、回り道はしたくない。
金があればなぁ……。む、待てよ。金か……。意外となんとかなるかもしれない。
「俺が冒険者ギルドまで連れてってやるよ。登録代も出してやるから」
「お、いいのか? それは助かる」
俺はほくそ笑みながら、店主のおっさんに感謝する。
実際にやったことはないけど、知識では知っている。冒険者ギルドを利用したゲーム史上3番目の金策。
やはり『天我原』では序盤は金があると強い。世界ランキングが4桁辺りからは、所持金の額は無意味になるが、金があるだけ良いスタートダッシュが踏めるのも事実。
あまり国と関わりたくないけど、仕方ない。妥協しよう。
やるか。『王女釣り』!
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