§5 分詞の読み方


綿貫萌菜(座長)「みんな、ちゃんと寝られてるかな?」 

安曇梓「テスト前はあまり寝られてないです」

綿「睡眠は美容の大敵。いくら女子高生といったって、寝ないとお肌は荒れるものだよ」


橘美幸「花丸くんもきっと睡眠不足よね」

花丸元気「そんなことないけど」

橘「いいのよ隠さなくて。あなたが寝る前に私のことを考えて、興奮して寝られなくなってしまうことはよく分かっているもの」

花:「おい」


綿「まあ、花丸くんが夜、美幸ちゃんのどんな姿を想像しているかは、プライバシーのためそっとしておくとして、今回は、違う理由で眠れなくなった人たちについての記事を読んでいくよ」

花「座長も大概失礼だな」


──────

The Asahi Shimbunより最近話題の乳酸菌飲料についての記事。今回は分詞がたくさん出てくる。じゃあ早速読んでいこう。


The sleep tech market has been awakened during the novel coronavirus pandemic, rapidly growing to meet the increased health consciousness needs of consumers.


Riding the coattails of Yakult Honsha Co.'s Yakult 1000 probiotic drink, food companies are introducing new products to help improve their customers' sleep.


There has been a growing interest in sleep quality.


According to a survey by leading confectionery maker Ezaki Glico Co. in August covering 500 people, 68.6 percent said they still feel exhausted when their sleep quality is poor even though they have slept enough hours.


《Sleep tech market doubles in value during COVID pandemic

By KAZUMI TAKO/ Staff WriterOctober 2, 2022 at 14:53 JSTより抜粋》



The sleep tech market has been awakened during the novel coronavirus pandemic, rapidly growing to meet the increased health consciousness needs of consumers.

 SはThe sleep tech market。Vはhas been awakened。現在完了形の受動態の形だね。awakenは他動詞「目覚めさせる」。ここでは市場を活性化させたという意味合いで使っている。その後にカンマを挟みrapidlyという副詞を伴ってgrowingというVing形が続く。これはどう解釈しよう。

安:has been ~~ growing という現在完了進行形のVingです。


なるほど。確かにその形で訳をしても「The sleep tech marketがawakenedされ、growingしてきた」というふうになって、おかしなことはないね。でもhas been に呼応するawakenedとgrowingを結びつけるものがないよ。過去分詞も現在分詞も動詞の亜種と考えれば、「一つの節にSとVは一つ」という原則に従うはずだ。もし、VppとVingを並べる必要があるなら、教科書的にはandのような等位接続詞を用いる必要がある。

花:文法を無視した文なのかも。


そういう解釈もできなくはないけど、これは新聞記事だから、一応正しい文法を用いるようにしているはずだよ。文法通りに解釈するとして、主節を修飾するVing形と言ったら何があったかな?

橘:現在分詞を用いた分詞構文です。


That's right. 分詞構文は明示されてない限り、意味上の主語は主節の主語と一致する。だからgrowingの意味上の主語はThe sleep tech marketとなって、結局andで述語を結んだ文と意味的にはほぼ一緒になるんだ。分詞構文であることによって、marketがawakeされて、marketが成長した、というawakened→growingという時間の経過を表すことはできるけどね。

 the novel coronavirus pandemicのnovelはどういう意味かな。

安:目新しい。


 うん。単語帳ではそれが初めに書かれていることが多いね。名詞としては小説という意味もあるね。 

 じゃあ目新しい、という言葉を聞いたとき、どういう雰囲気を想像する?

花:どちらかというと、ポジティブな感じを受けますね。


 そうだね。じゃあ美幸ちゃん、奇抜っていう言葉を使って例文を作ってくれる?

橘:花丸くんって奇抜よね。

花:それはどちらかというと悪口だよな。

橘:花丸くんって変人よね。

花:それは普通に悪口だよな。


さすが。素晴らしい!

花:先輩、ひどくないすか?

橘:だって本当のことじゃない。


 奇抜という言葉自体に悪い意味はなく、むしろとびぬけて優れていることを言うんだけどね。ここは日本人とアメリカ人の気質の違いなのかもしれないけど、和を以て尊しと為す、という精神性からみられるように、日本人は変わっていることを悪いことだととらえがちなのに対して、アメリカ人はそうとは限らないし、どちらかというと変わっていることを良しとする風潮がある。例えばさっきの美幸ちゃんのセリフを英訳すると、Hanamaru is special. Hanamaru is eccentric.になる。でもこのセリフは悪口というより、むしろ褒める場面で使われる。

 そこは頭の隅に入れておこう。

 で、今回のnovelがいい意味で使われているかと言ったら、例外的にネガティブな意味で使われているパターンだ。後ろのcoronavirus pandemicを見ればわかると思うけど。

 医学的な場面で使うnovelは「新型の」という、単に今までになかったウイルスや細菌などを言い表す使い方をする。

 ご存じの通り新型コロナウイルスの大流行のことだね。

 分詞構文を見ると、growingの後にto不定詞が来る。これは何用法かな。

安:副詞的用法です。

 

 そうだね。to meet~~が副詞的にgrowingを修飾する。ここでのmeetは「会う」ではなく「(条件など)を満たす」という意味だ。何を満たすのかといえば、the increased health consciousness needsで、高まった健康志向のニーズ(需要)をだね。じゃあto 不定詞の副詞的用法には意味が何個かあったけど、これは何かな?

花:目的「~するために」。


Good! rapidly growing to meet -- needsで「--需要を満たすため急激に成長する」


ここのincreasedは過去分詞の形容詞的用法だよ。後ろのhealth consciousness needsを修飾する。過去分詞が名詞を修飾するときは、過去分詞と名詞は受動態の関係になることを押さえておこう。



S V during ~~ ,{ V'ing to do O'}.


以下構文と訳。

The sleep techS market has been awakenedhas Vpp {during the novel coronavirus pandemic前置詞+名詞}, {rapidly growing現在分詞 to meetto do the (increased)M→ healthO consciousness needs (of consumers)}.

『スリープテック(睡眠技術)市場は目覚めさせられた→新型コロナウイルス流行の間に→そして急激に成長した→満たすために→(何を?)増大した健康志向の需要→(誰の需要かというと)消費者の』


Riding the coattails of Yakult Honsha Co.'s Yakult 1000 probiotic drink, food companies are introducing new products to help improve their customers' sleep.

 文頭にRidingというVing形がある。文頭のVing形の解釈としては、上で見た分詞構文か、あるいは動名詞として主語になっているかだ。どっちだと思う?

安:じゃあ、動名詞!


 動名詞だったと仮定して読み進めていくと、the coattailsを意味上の目的語として取り、それを修飾する前置詞句の終わりにカンマが来る。そしてfood companiesという名詞の塊の後ろに、are Vingという述語動詞らしきものが来る。この時点で、最初のRidingが動名詞という仮定を棄却し、food companiesが主語、are introducingが述語動詞の文であると軌道修正する。となるとRidingが導く、前半部分は何だろうか。

花:分詞構文ですね。


 その通りだ。coattailsは礼服の裾のことなんだけど、ride the coattails ofで「~(の成功)に(ちゃっかり)便乗して活躍する[うまくやる]」という慣用表現になる。礼服というものは社会的地位があり、財力のある人じゃないと買えないでしょ。それにrideするということは、金魚のフンみたくくっついて、恩恵にあずかろうとする、みたいな感じなんだろう。

 主節の主語がfood companiesであるところから、Ridingの意味上の主語もfood companiesになる。彼らが何に便乗したかといえば、ヤクルト本社のヤクルト1000という製品にだね。

 主節に行くよ。introducingの目的語にnew productsを取って、その後に続くのがto help improve~~のto不定詞。このhelp 原形動詞、はto不定詞の特殊バージョンだ。Vするのを手伝う、という意味になる。help O (to) doのOとtoがないバージョンだね。

 構造としては

{Ving O',}S V O to help 原形 O'.


以下構文と訳。

Riding現在分詞 the coattailsO' of Yakult Honsha Co.'s Yakult 1000 probiotic drink,} food companiesS are introducingV new productsO (to help improveto help 原形不定詞 their customers' sleepO').

『便乗して→(何に?)ヤクルト本社のヤクルト1000という善玉菌飲料に、→食品会社は導入した→(何を?)新製品を→(どういう新製品かというと)向上させるのを助ける→(何を向上?)消費者の睡眠を』


There has been a growing interest in sleep quality.

 この文を見て即座に、主語はthereだ! と叫んだ人は要注意。これはThere is~~構文の派生形だ。There be S 場所. でSが(場所)にある。という意味を表す。つまり主語が動詞の後に来ているんだ。

 ここで覚えておいてほしいことは、There is構文のisの部分は一般動詞も入ることがあり、There V S. の形もしばしばみるということだ。

e.g.

There lived a tiger in the cave.(その洞窟には一頭の虎が住んでいた)(1)


以上をふまえると、この文のSVはどうなるかな。

橘:Sがa growing interestでVがhas beenです。


そう。今回はthere isのisが現在完了になった形だね。a growing interestのgrowingはinterestにかかる現在分詞で形容詞的に使われている。growingの意味上の主語はinterestだね。

ということで

There V S (←M)という構造になり


以下構造と訳

ThereThere has beenV a growing interestSin sleep←M quality).

『(Thereってことは存在を表す文か?)→生じてきている→(何が?)強くなっている関心が→(何に対する関心かといえば)睡眠の質に関して』


According to a survey by leading confectionery maker Ezaki Glico Co. in August covering 500 people, 68.6 percent said they still feel exhausted when their sleep quality is poor even though they have slept enough hours.

 According toは群前置詞だ。ここで前置詞のついた名詞は主語にならない(→§2)、という原則を思い出して、この前置詞句がどこまで続くか注意して読んでいく。According toの目的語はa surveyで後ろに続くby -- Ezaki Glico Co.という前置詞句によって修飾されている。時期を示すin Augustより後ろのcovering 500 peopleは現在分詞の導く句で、a surveyが被修飾語かつ意味上の主語となる。ここでカンマで区切られ、その後ろにようやく主節のSVがお目見えする。

 主語は68.6 percentで述語動詞は saidだ。その後 they still feel --とSVらしきものが続くが、that SVの省略と考え、saidの目的語と考える。 exhaustedは「疲れ切った」 。whenが時の副詞節を導いて、when their sleep quality is poor「睡眠の質が低ければ」。 even thoughでさらに従属節が導かれ、even though they have slept enough hours.「十分に睡眠をとったとしても」。ここで現在完了が使われているのは、原因と結果を表現するためだね。


e.g

I've slept enough hours. I feel good.

『よく寝た→(その結果)気分がいい。』


今回はeven thoughをつけることで、

Even though I have slept enough hours, I feel exhausted.

『よく寝た→(それなのに結果的には)疲労を感じる』

という原因から予想される結果とは逆のことが起きていることを表現している。


enough hoursは名詞なんだけど、文中ではsleptの後方に位置し、かつsleptを修飾している。つまり動詞に対し副詞的な働きをしている名詞だ。これを副詞的目的格と言う。今回みたいに時間を表す名詞(e.g. everyday, three days etc.)の他、距離(walk 10 miles)、方法(try this way)、程度(it is 10 pounds heavier)を表すときにも使う。


まとめるとsaidの目的語であるthat節の中に、whenとeven thogh が導く副詞節が二つあるということになる。


(According to a survey -- Ving O'), S V [S' V' {when S'' V''} {even though S''' have V'''pp}]


以下構造と訳

According to群前置詞 a survey名詞 (by leading confectionery←M maker Ezaki Glico Co. ){in August} (coveringVing 500 peopleO')}, 68.6 percentS saidV[<that省略theyS' still feelV' exhaustedCwhen接続詞 their sleep qualityS'' isV'' poorC''} {even though←M:接続詞 theyS''' have slepthave V'''pp enough hours←M}].

『ある調査によると→(どういう調査かというと)製菓会社江崎グリコによってなされた→(いつかというと)八月に→(この調査は)500人に対して行われた→68.6%が言った→(なんといったか)疲労感を感じると→(どういう場合にかといえば)睡眠の質が悪ければ→十分に睡眠時間を取ったとしても』


今回のポイント

その一 There V SのVは必ずしもbe動詞とは限らない。

その二 名詞の副詞的目的格


参考文献

(1)表現のための実践ロイヤル英文法、p14、旺文社、綿貫陽・マークピーターセン

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