§3 関係詞の非制限用法、現在分詞と分詞構文


 休み時間に橘が俺の席のところまでやってきた。何やら紙ぺらを手に持っている。多分、いや絶対なんかいたずらを企んでいるに違いない。


「ねえねえ、花丸くん。少し教えてほしいことがあるのだけれど」

「……なんだよ、橘さん」

 聞かなかったら聞かなかったで、それは後でひどい目に遭わされるのを、彼女と過ごした学校生活において、俺は痛いほど思い知らされていたので、渋々話を聞く。


「これを英訳してくれないかしら」

 そう言って彼女は、手に持っていた紙ぺらを俺に見せてきた。

 そこには見慣れた彼女の字で「私は彼女の尻尾を見る」と書かれてあった。


「……なんだよこれ」

 俺が胡乱げな目で彼女を見たら

「いいから、訳して頂戴」

 と俺をねめつけてきた。


「I see her butt.」

 俺がいやいや訳をしたら、彼女は凍てつくような視線を向けてくる。

「……ねえ。あなたが私のお尻をゲスな視線で嘗め回すように見ていることは薄々勘づいてはいたけれど、思春期の男の子の気持ちを逆撫でしないようにと思って、黙って見逃していた私の優しさを踏みにじるとは、いったいどういう了見かしら」

「み、見てねえよ! お前のケツなんて!」

「じゃあ、誰のお尻を見てたっていうのよ?」

「……ほらあれだ。seeというのは意識して見ているわけではなく、たまたま目に入っただけであって、そこに他意はなく、それを断罪し始めると、この国の男は全員目つぶしの刑にしなければならなくなるので、誰も彼もそれを咎めることはできないのだ」

「あなたの視姦の言い訳なんて聞きたくないのだけれど。もういいから、ちゃんと訳して。尻尾がどうしてお尻に変わるのよ」


 やんぬるかな。

「……I see her tail.」

 それを聞いた橘は嬉しそうに俺を罵倒し始めた。

「え、何ですって? 愛し合ってるですって? いやだわ花丸くん。あなたが私のことを大好きなのはよく知っているけれど、私がいつあなたのことを好きだといったのかしら。勘違いも甚だしいわね」

 

「……」

 ほらね。


──────


綿貫萌菜(座長)「英字新聞抄読会第三回! 今日も張り切ってやってこう!」

橘:パチパチパチ

安:イエーイ!

花:……。

綿:花丸くんは相変わらずだな。


 さっそく本文を見てみよう。今日は季節の話題だね。すっかり涼しくなってきたけど、秋と言えば秋桜。コスモスの話題だよ。

 前回までやったSVを見つける練習と一緒に、関係詞の非制限用法、現在分詞と分詞構文について学んでいこう。


以下本文

Cosmos, which is the name of colorful flowers that bloom in autumn, is also a word that denotes the universe (or world), and the word comes from a Greek word that means order and harmony.


Cosmos flowers were so named because of the beauty in the orderly arrangement of their petals.


Order can be sensed not only from the petals, but also from the sight of clusters of cosmoses growing all over fields.


A haiku by Fusako Mogi goes to this effect, “Looking at cosmoses/ I, too, am swaying.”



≪The Asahi shimbun、Human actions causing chaos, not harmony in the environmentより抜粋≫


じゃあ一文目だ。

Cosmos, which is the name of colorful flowers that bloom in autumn, is also a word that denotes the universe (or world), and the word comes from a Greek word that means order and harmony.

主語はコスモス。その後カンマが入って

~,which is~ that bloom~, is ~

とある。このカンマ以下のwhichはなにかわかる?

花:関係代名詞の非制限用法です。先行詞Cosmosの補足情報を与えてます。


そうだね。制限用法のwhich節が特定のCosmosを述べる情報を与えるのに対して、非制限用法ならCosmos全体、つまりCosmosという概念の説明をしている。


①Motoki has a son, who teaches English at a high school.

②Motoki has a son who teaches English at a high school.

上の二文は、カンマの有無しか違いはない。しかし微妙に意味が違う。説明できるかな。


花:①のMotokiには息子がおそらく一人しかいないです。その息子の職業を補足的に説明しています。

Good! じゃあ②はどうかな?


安:②のMotokiは高校の英語教師をしている息子以外にも、子供がいる可能性があります。

橘:つまり、②の花丸くんは私を騙して隠し子を作っているということかしら? 本当、最低ね。

花:おい。なぜそうなる。


Motokiに隠し子がいるかは定かではないけど、②では複数人いる子供のうち、英語教師をしている息子を取り上げて話しているという可能性はあるし、でも本当に子供は一人だけなのかもしれない。それはこの文だけからは判別はできないけどね。

 意識の置き方として、「英語教師」の方に重点を置いているのか、「息子がいること」の方に重点を置いているのか、という違いがある。文脈的に「実は英語が得意な人を探してるんだよね」という会話のあとなら②。「あの人って子供いるのかな?」という会話のあとなら①という使い分けができる。


 カンマに挟まれたWhich節を出たところで、isに遭遇する。これがこの文の述語動詞だ。

安:じゃあ、この文の骨格は、CosmosがS、isがVで、a wordが補語CのSVCですね。


その通り。Cにあたるa wordが後ろのthat節によって説明されている。でもその後に,and the word comes——と続いているね。これはどういうことかな。

花:前半のCosmos, ~~, is also a word —, という文と、後半のthe word comes from a Greek word —という文がandによって 結ばれています。


Right! 二つ目のSであるwordにtheがついているのは、それがCosmosであるということが、書き手と読み手の間で共通認識になっているからだ。

というわけでこの文の構造はこうなる。


CosmosS, {which iswhich V’ the name of colorful flowers [that bloomthat V” in autumn],} isV also a wordCthat denotesthat V’ the universe (or world)},

and the word comesS V from a Greek word {that meansthat V’ order and harmony.}


denoteは「を意味する」という動詞だ。orderはここでは秩序。英国の議会を見ていると野次を飛ばす議員に対し議長が“Order! Order!(静粛に!)”と叫んでいるのを聞くと思うよ。harmonyは調和だね。


訳としては

『コスモスは(※発音的にはカズマスに近い)、秋に咲く色とりどりの花の名前だが、ある言葉でもある→(どんな言葉かというと)宇宙、あるいは世界を意味する。そしてこの言葉は、ギリシャの言葉に由来する。→(どんな言葉かといえば)秩序と調和を意味する(言葉)』


Cosmos flowers were so named because of the beauty in the orderly arrangement of their petals.

 主語はCosmos flowers。述語はwere so named。受動態の形だね。soは指示語で、「そのように」という意味を持つ副詞だ。指示語が出てきたときはそれが文のどこを指しているのか、常に考える必要がある。指示語が示すのは直前に出てきた事柄であることが多い。それを予想しながらbecause of以下を読むと、コスモスの花弁petalsの幾何学的な美しさについて触れられていることを読み取り、前文に記されていた、「宇宙という意味のあるコスモスという花名が、秩序と調和を意味するギリシャ語に由来する」というところをさして“so”と言っていることが分かる。

 ちなみにbecause ofは群前置詞と言って、複数語で前置詞の役割を果たすものだ。前置詞相当語なので当然後ろにくるものは名詞相当語だね。接続詞としての働きを失うからbecause of 以下にS Vからなる節を置かないようにしよう。意味は「〜のために」という原因を表す。類義語にdue to、thanks toなどがある。


Cosmos flowersS were so namedV {because of the beauty群前置詞+名詞 in the orderly arrangement of their petals}.


『コスモスはそのよう(秩序、調和を意味するギリシャ語に由来する)に名付けられた。→(なぜなら)美しさのため→(どう美しいかといえば)花弁の秩序だった配置にみられる』


Order can be sensed not only from the petals, but also from the sight of clusters of cosmoses growing all over fields.

この文を見ていこう。

橘:SがOrder。Vがcan be sensedです。


not only~~~, but also ——— は知ってるかな。「〜〜だけではなく、──もまた」。等位接続詞butがfrom the petalsとfrom the sightという前置詞句を結んでいる(→§1)。この前置詞句が副詞的に働き、cosmosの秩序がどこから感じられるのか、というのを説明している。花弁から感じられる秩序、という既出情報に加えて、コスモスの群生する様子から感じられる秩序を述べている。

 ここでgrowingが文でどういう働きをしているか分かるかな。

安:cosmosesにかかって、野原一面に生息する、という様子を説明しています。

 そうだね。このgrowingは一般的に現在分詞と呼ばれるものだ。この現在分詞が修飾する名詞、ここではcosmosesだけど、それは現在分詞の意味上の主語であると説明される。野原一面に育つのはcosmosesだからね。

 構造はこのようになる。

OrderS can be sensedVnot onlynot only fromfrom ~~ the petals,

but alsobut also fromfrom ~~ the sight of clusters [of cosmoses意味上の主語S’ growingVing all over fields]}.


『秩序は感じられる→(何から?)花弁からだけではなく、群生する様子からも。→(群生とは)野原一面に育つコスモスの』


A haiku by Fusako Mogi goes to this effect, “Looking at cosmoses/ I, too, am swaying.”

前出の野原一面に群生するコスモス、というのを受けて、ある俳句を引用している。

ここにおけるgoes toはrefer to と同じような意味で使われている。

橘:言及する、ですね。


うん。ここでのeffectとは「効果」ではなく、「趣旨」や「意味」といった意味で使われている。go to this effectで「この趣旨に触れる」。意訳すると「茂木房子さんの俳句でこのことが詠まれている」。上でも言ったように、指示語が出てきたときはその該当部分を常に考えよう。「この趣旨」に相当するのは前文だね。

 そして引用する俳句がクオーテーションマーク内。Lookingから始まるのは、分詞句だ。ここでは/になっているけど、通常の文であればカンマで分詞句と主節は分けられる。この分詞句は文全体を修飾するMとしての働きを持つ。このように文に情報を付加する分詞の使い方を分詞構文という。

 分詞構文には主節に対し同時、連続、時、理由、といった情報を与える役割がある。

 この詩は現代俳句の歌人である茂木房子さんという人が詠んだ「秋桜見てをり吾(われ)も揺れてをり」という俳句の訳だ。口語に直すと「コスモスを見ていて、私も揺れている」となるだろうか。この分詞構文がいまいち上の役割のどれに当てはめて訳されたのかよくわからない。コスモスを見ていると、一緒に揺れてくるのか(連続)、コスモスを見るから、揺れてきてしまうのか(理由)、どちらかだとは思われる。私は俳句はてんで解さないので詳しい人がいたら教えてほしい。まあ、日本語でも、「コスモスを見ると、私も揺れる」と書いてあったとして、それが理由なのか、連続なのか、同時なのか、時を表しているのかは文脈で変わるし、人によって解釈も変わるから、ネイティブもなんとなくで使っているとは思うけどね。


 分詞構文を作るLookingは前述した分詞growingと同様、意味上の主語があるはずだが、今回明示はされていない。しかし明示がされていないときの意味上の主語は原則主節の主語と一致している。であるのでLookingしているのは、swayingしているIと同一人物だ。


 逆に、分詞構文の意味上の主語と主節の主語が一致していないものを独立分詞構文と呼ぶ。

例:Weather permitting, I will go tomorrow. 天気が良かったら行くよ。


※慣用表現では意味上の主語が主節の主語と異なっていても省略されることがある。例:Generally speaking、given that etc.


『茂木房子さんの俳句がこの趣旨に言及している。秋桜見てをり吾(われ)も揺れてをり』


今回はここまで。次回この文の続きをやろう。


今回のポイント

その一 関係詞の非制限用法では情報の補足をする。

その二 指示語は該当部分を常に意識する。

その三 動名詞、分詞の意味上の主語を意識する。

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