第15話 野球派
課長に会社の喫茶スペースで、
「みさきさんは野球派?サッカー派?」と突然聞かれた。マッチングアプリのCMのように。
野球派とサッカー派。
私はどちらでもない。
球技はほとんど観ないので、選手もルールもまったくわからない。
でも課長の質問には、どちらでもないという解答はない。
『野球派』or『サッカー派』だ。
私は考えた。どちらなら知識がなくてもこの話題を乗り切ることが出来るか。
『野球派』に私は賭けてみた。
「どちらかというと野球派です」
「そうか。ヤクルトが優勝したね」
ヤクルトが優勝。あの乳酸菌飲料が。
私は200億もの乳酸菌がバットとグローブを持って、ボールを投げたり打ったりしてる所を想像してしまった。
「そ、そうですね」
「村上がすごかったね」
また謎のワードが出てきた。村上。どこの村上さんだろう。
私が思い浮かぶのはマヂカルラブリーの村上さんしかない。でも絶対違う。村上さんは失礼だけれど、そんなにすごくない。
「すごかったですね」
無難に返した。すると、
「王さんの記録抜いたもんね」
課長は矢継ぎ早だ。
王さんはなんとなくわかる。
でもなんの記録を抜いたのだろう。
わからない。
ダメだ。次に何か言われたら、詰んでしまう。
「みさきさんはどこのファン?」
詰んでしまいました。
私はどこのファンでもないし、そもそも球団名もよくわからない。答える術がない。
どうしよう、どうしよう。
あ、あった。一つだけあった。毎朝、テレビの一般ニュースにも出て来るチーム名が。
「エ、エンゼルスです」
「あ、大谷翔平の」
課長は納得した顔をした。
そして総務の人に呼ばれて、どこかへ行ってしまった。
良かった。なんとか逃げきれた。
やっぱりオータニさんは、なんとかしてくれるのだ。
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