第6話 パワーワード

滑舌の悪い年配の男性上司に最近よく話しかけられる。

今日も一方的に、

「チョコレートはやっぱりロイズのが美味しいよね(北海道なので)」という話から、なぜか義理チョコの話になり、


「中学生の頃、まったくモテなかったから、お婆ちゃんがバレンタインデーに義理チョコを買ってくれていて、


俺が学校から帰ると、『チョコ、仏壇に供えてあるから』と言ったんだ。不二家のハートチョコが仏壇に供えてあったよ」


仏壇に義理チョコを供える。


かなりのパワーワードだし、ちょっと笑える。 


仏壇に義理チョコ。


でもその話を聞いて、どのくらいの強度で笑えばいいのかわからない。笑いの大きさを間違えると、また取り返しのつかないことになる。


私はしばらく逡巡したのちに、

「キャハハハ」と明石家さんまさんみたいな引き笑いをした。


すると滑舌の悪い男性上司がちょっと曇った顔をした。


取り返しのつかないことをしてしまいました。

また取り返しのつかないことをしてしまいました。今日こそ、今日こそ辞表を出そうと思っていると、


「ごめんな、婆ちゃんのこと思い出しちゃって」と潤んだ目で言った。


今日もなんとか取り返しました。

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