かちこちのガーラのお話

娘のガーラはじっとして、石のようになっているのが好きな子どもでした。

物心ついたときにはもうそうでした。他の子どもたちが遊ぼうと誘っても、家のことを手伝ってと頼んでも、すぐに庭の端に座り込んで、またそのようになってしまうのです。

夫は心配して、昼休みの度にガーラの様子を見に帰ってきては、2回3回、話しかけてまた職場に戻っていきます。夫は石工場で働いていて、「石屋の子どもだからこうなのかなぁ」と時たま呟いていました。

もちろん、私も心配でした。いちどお医者様に診せましたがどこも悪くないということで──年頃の女の子がおしゃべりもせずじっとしているのに、どこも悪くないなんて。

納得はできませんでしたが、お医者様の言うことです。それで、なんとも煮え切らない日々を送っておりました。

どうしたらこの子が他の子どもたちと遊ぶようになるのか。あんな風に、無為に時間を潰すことなく楽しめるようになるのか……。

もうそろそろ学校に上がるという年齢でしたから、その前にどうにかする必要がありました。考えられる限りのことをしました。

素敵な装丁の本を与えてみたり、外に出かけたくなるような服を繕ったり、他の子と分けられるだけのおやつを用意したり……けれど、どれもうまくいきませんでした。

「ガーラ、一体いつも、何のつもりなの? 何か気に入らないことがあるなら、はっきり言ってちょうだい」

ついにある日、本当に困ってしまって半ば泣きつくようにすると、ガーラははじめてびっくりしたような顔をしました。

「つもりって?」

「あなたがやっていること。じっと座り込んで、ぼうっとしていること。おしまいには、本当に石になってしまうわ」

「ぼうっとなんてしてないわ。あのね……母さん、私、見ていたのよ」

彼女はそう言うと、やっと立ち上がって自分の部屋に走っていきました。すぐに戻ってくると、たくさん石を抱えていました。夫が仕事場から持ち帰ってくる、クズ石をためていたようなのです。

それから布を広げて、その上に石と石を組み合わせるようにして置いていきます。一体何をやっているのか、私には分かりませんでした。

「母さん、庭の端に行ってそこから外を見てきてよ。私がいいって言うまで」

初めて、ガーラが言い出したことです。またじっと固まってしまうのではないかという恐ろしさに耐えかねて、私は娘の言う通りにしました。彼女の様子を窺いながら、庭に出て端の方に向かいます。

家は丘の上に建っていて、そこから街が一望できました。

とはいえ名うての画家でも、あんまりここを題材にしたいとは思わないでしょう。いつも通りの、とても普通の景色なのですから。

結婚当初は綺麗だと思って、家事の合間に眺めたこともありましたが……ずいぶん久しぶりにこうしたような気がします。

しばらくぼんやりしていると、家の中からガーラが呼ぶ声が聞こえてきて、私は戻っていきました。

床の上に石が積まれています。いいえ、それだけではなくて……。

よく見ようと近づいていくと、ガーラは落ち着きがなく手を握ったり開いたりして、私の反応を待っているようでした。

「これは……あの街の景色なのね?」

驚いて呟くと、彼女は頷きます。確かに先程見た景色が、そっくりそのまま床の上に再現されていました。

ぎざぎざの小さな石は道に、どっしりと平べったい石は橋に。確か遠近法というのでしょうか、家々の大きさまで忠実に、街並みがうまい具合に組み立られているのです。

小さい頃の私にはこんなことはできませんでした。驚くべき集中力と探究心です。

どうして、こんなに石を弄くろうと思ったのかは分かりませんが、でも、本当に楽しくてやったのでしょう。

初めてこの子の気持ちに触れられたような気がして、私は言葉もなく、ガーラの頭を撫でました。

それから、これを崩すのは絶対に嫌だと思いました。もし、うっかり蹴っ飛ばしてしまいでもしたら……。

「ガーラ、もしあなたが嫌じゃなければ、接着剤を使うのはどう?」

その申し出に、彼女は喜んでくれました。夫が使っている、石のための接着剤の予備がありましたので、手につかないように充分に注意して、小さな街並みを固めることにしました。

その作業は夕方までかかりましたが、楽しい時間でした。ガーラの言う通りにくっつけ、夢中で石に触っていると、自分まで子どもに戻ったような気がしました。

やがて夕飯の支度をしながら待っていると、帰ってきた夫は本当にびっくりしたようでした。

それから「この子は天才だ!」としきりに褒め、もじゃもじゃの髭の生えたキスをたっぷりとガーラに浴びせました。

嬉しいことに、ガーラはその翌日から、他の景色を探して出かけるようになりました。また石のようにじっと観察して、帰って街並みを組み立てるのが楽しみになったようです。

それにしても、ぴかぴかの宝石より何の変哲もない石に惹かれるなんて、やっぱり血は争えないものなのでしょうね。


お題:小さな芸術

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