川中碧唯

「あら、宝之華ちゃん?おでかけ?」


「はい?あ、碧唯さん!」


「珍しー着物着るんだね」


「実は初めて着たんですよ~」


そう説明する宝之華ちゃんの機嫌はいいみたい。零くんとの喧嘩は終わったのね。

隣にいる零くんも、機嫌いいしー。


「でもー着物って疲れます」


「お疲れ。私も着てみたいわー。零くん着付けもできる?」


「はい。ですが、川中先生に申し訳ないので、できません」


まったく。なんで零くんが忍に遠慮するんだか。


「そんなことどうでもいいのよ」


「いや、川中先生を悲しませるわけにはいきません」


まあまあ、忍ったら、零くんに同情されるなんてね。なめられたもんよ。


「わかったわ、それじゃあまたね」


うちのカギは開いていて、忍が既に帰っていた。


「おかえり」


「ただいまー。零くんがさーしーちゃんのこと心配してたわよ?」


「そう、か。…なんか悪いな」


「わかってるなら迷惑かけないようにしないとよ?」


「うん」


って言いながら迷惑かけんのよ、忍くん。


次の日、朝から宝之華ちゃんがやってきた。


「碧唯さーん!」


「なに?相談?」


「な、なんでわかったんですか?」


「うちにわざわざ来ないでしょ?で、どうしたの?」


零くんもきたしね。


「あのー最近私なんか体調悪くって。風邪かなと思ってたんですけど病院は…」


「それ、妊娠してんじゃね?」


「え?私が?」


さもありえないって顔してますけど、お嬢さん。


「私が検査薬買ってきてあげるから、家で座って待っててね」


「え、ええ?」


私は彼女に会ったときからなんとなくそうかなって思ってたけど、確証はなかったので言わなかった。


買ってきたものを渡す。


「わかったらすぐ教えてね」


「はい、でも違うと思うんですけど…」


「いいから調べて」


「はい」


少し経ってから、慌てて宝之華ちゃんは言った。


「私、妊娠してるっぽいです!ど、どうしよう!」


「しーちゃんのいる病院に行ってね。総合病院だから。地図書いてあげる」


「あ、ありがとうございます」


急に落ち着いた。


「よかったね」


「…はい」


照れ笑いしてる。なんだか妹のりおちゃんのことを思い出してしまった。あの子もまだ若かったときに子供できちゃって。私は何もしてあげられなかった。


「はい、これ地図。で、モデルは辞めるの?」


「え、どうしよう。まず誰に言ったらいいのかなぁ」


「上司は?」


「え、社長?」


「そうね。それでもいいわ」


「緊張するなぁ」


「まずは病院行ってちょうだい」


「はい、じゃあ行って…」


「ヒール履くのはやめてね。慌てずゆっくり行ってね」


「わかりました」


なんか、うちの子みたいな気分になっちゃう。

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