第47話

自宅へ帰宅すると、宝之華は帰っていた。


「零さんおかえり」


「今日は遅く行ったのに早いですね」


「うん。明日から撮影なんだよね〜。勉強しとけってさ」


「え?決まったんですか?」


「え、うん。そのお祝いの食事会だったんだけど?」


「え」


事務所に所属したお祝いかと思っていた。


「おめでとうございます」


「うふふーん!零さんは今日は何してたの?」


「あ、私も仕事決まりました」


「そうなの!?」


「はい。茶道教室なのですが」


「よかったね」


「はい。明日から早速仕事です」


「大変だね。茶道って教えたことあるの?」


「ないですよ?」


「よく引き受けたね」


「はい」


それはお金が欲しいので。なんでもしますとも。そのとき、電話が鳴った。


「誰ですか?」


「わかりません」


知らない番号だ。


「怪しーね」


でもこれは仕事の話であろう。そう思い電話に出る。


「え、出るんですか?」


「はい、躑躅でございます」


相手は母の知人で、一緒に個展に参加させて下さるということだった。まだ期間はあるのでゆっくり仕上げて欲しいということもおっしゃった。


「はい、失礼致します」


よし、書道の仕事もらえた。


「ねー誰だったの?」


宝之華が怪しんでいる。


「母の知人でした。仕事もらいました」


「わーお!じゃあ掛け持ちだね!」


「そうですね。この仕事は書道の仕事ですよ」


「よかったですねー!じゃあー今日は宝之華がちゃーんと料理しますね」


「ありがとうございます」


「嬉しい」


宝之華はまるで自分のことのように喜んでくれた。これは頑張らないと。


次の日、早速仕事へ向かう。

いきなり教えるというのは緊張するが、書道を教えていたし、大丈夫だろう。すっと教室に入る。


「失礼します。本日よりこちらの教室を担当致します、躑躅つつじと申します」


「まあー。丁寧な先生」

「お若いわ」

「顔もお綺麗よ!」


この教室は主婦の方が多いそうだ。ここは本格的に教える所ではない。趣味の一つなのだから。それでも皆さんは真剣に聞いてくれた。


無事終わり、帰ろうとしたとき、先ほど教えた主婦の方たちがまだ外にいた。


「あら~先生。待ってたのよ」


「え?」


「先生っておいくつ?」


「…19歳です」


「まあ、どうりでお若いわけだわ」

「着物で帰られるんですか?」


「はい」


「似合いますね」

「先生かわいいわ」

「ほんとねー」


いつの間にか取り囲まれていた。そして、べたべたと手を触られるという。


「先生のタイプは?」

「やだ、そんなこと聞かれても困るわよね?」

「先生、そもそも、女の子好きかしら?」

「やだ~当たり前ですよね?」


教室ではおとなしく、真剣に取り組んでいたように見えたのに。集団はちょっと怖い。


「皆さん、先生は仕事を終えて帰られるんですよ」


あ、母の知人の先生だ。


「失礼しました」


ささーっと集団で帰られた。


「躑躅さん。こちらへ」


また室内に戻された。怒られてしまうのだろうか?


「うちの生徒がすみません」


「いえ」


「先生お若いですからね」


「はい?」


「ちょっと聞きたのですけど、躑躅さんは彼女さんとかいらっしゃるの?」


先生。それは生徒さんと一緒のような質問ですね…。


「…私は結婚しております」


「あら!そうなの?どういうお方?かわいらしいのかしら?」


「はい…」


どう答えたらいいのだろう?


「素敵ですね。ぜひお会いしたいです」


「はい。そのうち」


「楽しみにしていますね。呼び止めてすみませんでした」


「いえ。失礼します」


こういう攻撃をうけないで、すぐにでも帰れるようにしたい。どうしたら?帰り道、ぼーっと考えていた。


妻がいます、と自己紹介するのもなんだし…


…あ、僕は指輪をしていないではないか。

少しはお金入ったし…買おう。

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