第48話

帰る途中に偶然宝之華と会った。


「零さんだーおかえりー」


「あの、ちょっと買い物行きませんか?」


「え?もう買い物したよ?」


あー、袋を持っているではないか。


「ええと、食料ではなくて、別のものを買いに行きたいのですが」


「私と?」


「はい」


「これ家に置いてからでいいですか?」


「はい。持ちます」


一旦家に帰って荷物を置き、それから買物へ行った。


「どこ行くの?…え、ここ?」


宝之華は店の前で驚いている。


「指輪買いましょう」


「え、なんで急に?」


「教室の生徒さんから、質問攻めされるのが面倒なので」


「どういうことですか?」


「そんなことはいいので入りましょう」


中に入ると、宝之華は目をキラキラと光らせて見始めた。


「うわー綺麗。どれにしよう」


「好きなものでいいですよ」


「え、でもお金は?」


「分割で」


「え、それって私も払うの?」


「いえ。私が」


「本当!?じゃあね~これ?」


「ダイアなしでお願いします」


「えー好きなのでいいって言ったじゃん」


「すみません」


さすがにそれは今後を考えると、無理である。


「いーよーっだ。じゃあこれで」


なんとか予算内のものに決めてくれた。

実くんはこういうアクセサリーをたくさん持っていたが、あれはいったいいくらなのだろうか。

早速指輪をして帰った。


「えへへ、奥様?って感じ?」


「僕は?似合ってますか?」


「うん。意外とね」


家に帰ると宝之華は指輪を外し、箱に戻した。


「え、どうしてつけないんですか?」


「だって私未婚設定だし。仕事じゃ指輪できないし、外しとくの」


「あ、そうでしたね」


それも契約のうちでしたっけ。


「質問なのですが、他のモデルさん方は指輪をされていないのですか?」


「それが、翼さんと、雑用の人が結婚してるからしてるけど、みーんなしてないよ」


そういう方針の会社なのか?またはみんな隠しているのか?


「あー真奈さんもしてない」


「結婚はしてないんですよね?」


「そうだけど、婚約とかもまだなのかな?」


…私は結婚後だいぶ経ってから渡してすみませんでした。


宝之華は雑誌を読み始めたので、ふと携帯を見ると、たくさんのメールが。というより、無視していたものがさらに増えていた。さすがに返事するべきか。


内容はこうだ。


『零くんの家の住所おしえて!足助実』


この同じ文章が何通も送られてた。


よし、『わからない』


と、返事した。途端に電話が鳴った。


「実くん?」


「もー零くんひどい!無視しないでよね!」


「忙しくて」


「そうなの?住所なんでわかんないの?」


「今仕事場で、まだ覚えてなくて」


「そうなの?でも知りたいなー!どうしたらいいかな?」


こっちがこのくだらないメールと電話の対処法をどうしたらいいか聞きたい。

あ、そうだ。


「ところで実くん、憧れの真奈さんと宝之華は同じ会社みたいですよ」


「え?」


実くんは電話しながら固まってしまったかもしれない。


「2人は同じカメラマンさんらしいですよ」


「え、なんで?」


「さあ?」


「ま、真奈ちゃんは、元気?」


「おそらく。しかし真奈さんには彼氏がいるとか」


「うん、たしか先人が言ってた気がする」


「結婚するんですか?真奈さん」


「さあね。でも真奈ちゃん大学生だし、まだしないと思う」


「そう、なんですか?」


これは知らなかった。あの人大学なんて行っているようには見えなかったから。


「零くんじゃあね」


弱弱しい声で一方的に電話が切られた。真奈さんの話題に弱い。


「今の実さん?」


「はい。メールしつこかったんで、真奈さんの話題をしました」


「えーひどいよ零さん」


「このメールですよ?」


宝之華に大量のメールを見せた。


「げーなにこれきもー」


「そうでしょうとも」


どうやら宝之華は納得してくれたようだ。

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