第46話

次の日は、朝から華道をすることに。生け花である。


宝之華は昨日のことで疲れて寝ていた。ので、食事はしないで近くに花を買いに行き、それから開始する。テーマは特に決まっていないので、自分の好きなようにしてよかった。あまり大きな作品にはしないので、今回は軽めに。予算も少ないので。


作品作りに没頭していたら、いつの間にか宝之華が起きていた。


「あ、おはようございます」


「おはよー零さん。ごはんどうしたの?」


「食べていません」


「作ったから食べよーよ」


「はい」


「散らかりすごいんだけど」


「すみません。終わりました」


「手伝うよ」


「ありがとうございます」


床に散らばった花の茎や葉をかき集める。


「…ねぇ零さん」


「はい?」


「なんで、遅く寝たのにそんな元気なの?」


「それは…ストレスが発散されたからです」


「は?」


理解してない。そんなところもかわいらしい。


「花綺麗だねー」


「はい」


「さっさと片付けて食べよう!」


できた妻を持つと本当にいいものです。食事の後は宝之華は仕事に行った。


さて、私もこの生け花を持って行こうではないか。この生け花を持って行くところは、華道教室である。これは試験的なものなのだろう。


「初めまして。躑躅零つつじれいと申します。こちらが私の作品でございます」


「まあ、素晴らしいですね。躑躅さんはお母様に似てセンスがありますね」


「ありがとうございます」


「ところで躑躅さんはお花以外にもできることがありますか?」


「はい。書道はもちろんですが、茶道もたしなむ程度ですができます」


「あの、申し訳ないのですが、華道の先生は決まってしまっていて。ぜひ茶道の先生をやってほしいのですが」


え、ここは華道教室ではないのか?そしてこの生け花。どうしたらいいのだろう。


「…はい。承りました」


「まあ!よかった。ではこのお花、私に買い取らせて下さい」


「ありがとうございます」


「では、早速教室へご案内します」


「はい」


この教室を経営している方も、母の知人ある。教室に案内されながら、ここでは様々なことを教えていることが分かった。たくさんの教室があり、講師もたくさんいた。その中の1人だと思うと少し嫌だが、お金のためなら仕方がない。

講師が教えているところも見せてもらった。書道教室もあったが、まだまだな講師がほとんどだ。そう思うと不愉快になったが、我慢だ。宝之華も頑張っているんだから。


一通り、教室の案内が終わった。


「どうでした?躑躅さん」


「良い施設ですね」


「まあ!では、明日からでもお願いできますか?」


「はい。…交通費は頂けますか?」


「もちろんです。ここから遠いのですね」


「はい。電車で参りますので」


もらえるものは、きっちりもらっておこう。


帰り道、珍しく母から電話が入った。


「はい。躑躅でございます」


「零、あなた仕事は決まったのですか?」


いきなり本題である。


「はい。茶道教室で講師をさせて頂くことになりました」


「書道はどうされたのでしょうか?」


「それはまだ何も決まっておりません」


「私の知人が個展を開く際、あなたにも参加させて頂けるように連絡しておきますわ」


母はお嬢様なので、そういった言葉を使うことがよくある。


「ありがとうございます」


「では失礼します」


用件だけで終わった。書道の仕事は欲しいが、きっかけがない。母に頼るしかない自分が悲しいが、今はそうするのが得策だと思う。

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