仕事が決まる

第45話

今日は職探しをしていたら、すっかり遅くなってしまった。でも、宝之華は職場の人と食事ということで、丁度よかった。駅から歩いて帰る。夜の路地は暗いことに気付いた。ここはあまり電灯が設置されていないのか。


ふと、前を見たら、宝之華っぽい人が3人の男達に取り囲まれているではないか。しかも金髪で悪そうな感じ?


そっと近づくと横顔が見えた。あ、やはり宝之華だ。


会話が聞こえてきた。


「今から遊びに行こーよ」


「や、私もう帰るんで…」


「いいじゃん~遊ぼうよ~」


これは、いけない。そっと彼らに近づくと、宝之華の肩をつかもうとしていたので、そのままその男を投げ飛ばす。


「な、なんだ!?」


残っていた2人が騒いだ。


「私の妻に触らないで頂けますか?」


さっと宝之華の手首を掴んだ。宝之華は驚いていた、が今はそんなこと関係ない。


「は…!?ひっくり返したのお前か?」


「申し訳ありません。そちらの方を介抱して差し上げて下さい」


お辞儀をして、宝之華の手を引いたままその場から離れた。


「こ、怖え~~!」


後ろから怯えた声が聞こえてきた。もし、彼らが警察にでも言ったらどうしようか?こちらから仕掛けたわけではないので、大丈夫、だろう。と思いたい。


そんな思いから、さっさと歩く。


「あ、あの~零さん、さっきはありがとうございます…」


あ、宝之華の手首を掴んだままだった。そして今まで無言だった。


「あ、ちょうど見かけたもので…つい…」


「助かりました!」


「…僕が来なかったらどうしてましたか?」


「うーん、でかい声出して騒いでたかな?」


「宝之華だったら大丈夫ですね」


とは言ったものの、やはり心配だ。今度は手を繋いで帰ることに。こうして、2人で歩くのは久しぶりな気がした。ちょっとしたデートのような気分だ。


「零さん、今日どこ行ってたの?」


「職探しです」


「お疲れ様」


「宝之華はどうでした?食事会の方は?」


「あーー。それが、酔っ払いを介抱しないといけなくて、疲れた!」


「お疲れ様です」


「そもそも、私のためって言っといてなんなんだよって話!酔っ払い押し付けて!」


「そうなんですか」


「もー!やーなっちゃう!でもおごってもらったから…悔しい!」


「それはよかったですね」


「うん。宝之華ね、フランス料理食べたことなくてさー!」


「そうですか」


「もーびっくり!店内もすごい豪華でさ!」


そう話す宝之華はまだあどけない顔であった。彼女は福岡にいたときと変わっていないんだな。


「なーに?なんかついてる?」


「いえ」


ついつい見つめていた。


「ところで、どのような料理だったんですか?」


「えーっと、スパゲッティにステーキに~」


指を折りながら数えるしぐさは、かわいらしい。


「えーっと、なんだったっけ?」


一所懸命に考えている宝之華を引き寄せ、キスした。


「…ちょっと!」


「それで?あとはなんですか?」


「え…?えっと、…!もう!しゃべれないよ!」


「すみません」


と言いつつまたキスする。


「もう、零さん!やめってってば!」


「嫌です」


「だ、誰かに見られたら宝之華やだもん!」


「大丈夫です、夜ですし」


「おい!そこのバカップル!」


「…え!わあー!細川先生!」


こんな時間に会うなんて、偶然だ。


「ええ!見てたんですか?」


「お前ら通行の邪魔だ。もうすぐ家なのにバカなのか?そういうことは家でしなさい」


「はい、そうですね」


「もー零さんのバカ!」


怒っているけど宝之華は照れている。


「とっとと帰れ」


細川先生は大変冷静だ。さすがです。そのまま去って行った。


「さて、帰りましょうか」


「もう、零さんは恥ずかしくないの?」


「はい」


「真顔とか!どういうこと!」


「精神統一は得意なんですよ?」


「意味わかんない!」

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