第39話

「ただいまーっす!」


玄関から威勢の良い声が。この声は…


「おかえり、杏」


細川先生の機嫌がよくなった。


「おーいらっしゃい」


「お邪魔してまーす!」


宝之華の機嫌もよくなった。


「あのー、細川先生明日帰り遅いって。ご飯自分で作れって言われたんですー」


「そうかそうか。残念でした」


「まじ残念です」


「頑張れ新婚さん」


「あざーっす!」


しかしながら、毎度食事をさせて頂いているのにこにらからはなんのお礼もしていない。これは、いけない。


「あの、細川先生」


「なに」


「どうかお礼をさせて下さい」


「は?別にいいってそんなの」


「お願いします」


「え、零さん、なんのお礼すんの?」


「あの、お茶はお好きでしょうか?」


「は、お茶?」


「あー、わかった。零さんは茶道もできるんですよ。で、それを細川先生達に飲ませたいってこと?」


「はい」


宝之華に説明させてしまった。


「最初からそう言えよ」


ですよね…。わかってはいてもまとめるのが苦手です。


そういうことで、自宅へ戻り、お茶の準備をする。部屋は散らかっているけど、座れるだろう。

そうこうしているうちに、食事を終えた細川先生方がやってきた。


「うわ、なんだよこれ」


細川先生の声が聞こえた。ので、玄関へ行く。


「すみません。まだ準備が終わっていないのですが」


「お前ら、どういうことだ!」


お待たせして申し訳ないです。


「この部屋、汚ねーぞ!物が散乱してっぞ」


「え、どーゆーこと?私たちまだ引っ越してきたばっかですよ?」


「ふざけんな。このダンボールはなんだ!そのままじゃねーか!」


「えーそれは今使うのじゃないし。後でよくないですか?」


「ありえん。片づけるぞ。杏、手伝って」


「ういーっす」


「えー?今からやるんですかー?」


「えーじゃねーし。やるぞ。零くんもな」


「え?」


お茶にお招きしたのに、部屋の片づけをするはめに。


「これはお前のか!雑誌を床に置くな!」


「えー、勉強中なんだもん」


「棚に戻せ」


「えー」


「えーじゃない!やれ!」


「もー、厳しすぎますー」


「で?これは零くんのか?」


「はい」


「なになにー。これ零くんの字?」


「はい」


積み上げられた書を見られた。杏さんにも。


「うまいねー。ね、将希?」


「うまいじゃん。で、これはいる?」


「いらないです」


「じゃあ捨てろよ」


ごみ袋にあっさり入れられた。面倒かけます。

片づけながらも細川先生により、掃除もされていた。杏さんに聞いたところ、細川先生は潔癖症だとか。なるほど。それでなのか。

やっと片付き、準備していたお茶を入れる。


「まじで本格的だー!零くんかっこいいね」


「片づけもしろよな」


「はい…。お待たせ致しました。どうぞ」


やっと、お茶を振舞うことができた。お二方共に喜んで頂けた。


「食事に片づけまで、本当にありがとうございます」


「いーのいーの。これは趣味だからさー」


「違うし。ちゃんと自分たちでやれよな、まったく」


「すみません」


「零さんは〜掃除いつもやってもらってたからできないんです」


「へー人任せかよ」


なんという痛い言葉。自分でできるように努力せねば。


「まあーそのうちできるって」


なんという優しい言葉。杏さんは本当にお優しい。


「だめです!これ以上散らかされたら私困ります!」


「は?お前も散らかしてんじゃん」


「私以上に散らかすんです!」


「お前が散らかさなきゃいい」


「は?だから私よりも零さんがすっごーい散らかすって言ってんじゃん!」


また喧嘩になってしまった。

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