第22話 歓迎会当日

 ミツキが身を寄せている、オリュンポス教会ウェストフラン王国支部ではいつになく緊張感が漂っていた。その一室にて、しかつめらしい顔でコンスタン司教が聖女とその護衛たちを前に本日の段取りを話していた。


「本日、王宮での歓迎会が行われるわけだが、先日の騒動を考えると今回は本宮での開催とは言え安心出来ない。護衛は見直して強化をせんとな。」


「今日はエルザさんとビアンカさんの女性二人が担当だから、どんなときもずっと近くに居てくれるので大丈夫。」


 ミツキはいつもの明るい脳天気感じで危機感薄く気軽な調子で答えていた。


「しかしなぁ、今日は教皇様を迎えた正式な歓迎会となるから各領地からの参加者も多い。余計トラブルが多そうではないか。陛下も臨席されるから王城側の警備も強化されるんだろうが、それでも安心はできんからなぁ…」


 そこに後ろに控えていた護衛修道士から手を挙げての発言が割り込んだ。


「それでは、本日シフト外ですが私も聖女様の警備で付かせていただきたいのですが。」


 本来ならばローテーション上、本日は休暇となるはずの護衛修道士のリーダー、アマートが申し出た。


「おお、アマートも付いてくれるか。それは心強いことこの上ないが、連日の護衛の後に休暇返上となるのは申し訳ないな。」


「いえ、私も本国から聖女様の護衛として来た身です。危険が予見される状況下で護衛に付けないとなれば、とても休む気持ちになりません。是非ともお側にて護らせて頂きたい。」


「アマートさん、ありがとうございます!嬉しいです!大変ですけどお願いしますね!」


 ミツキにも声を掛けられ、びっくりしながらもやや顔を紅潮させてアマートは恭しく頭を下げた。


「それではエルザ殿に加えて、修道士三名と…あー、おそらくもう一名…は勝手について行くと言うか潜んでると言うか、まあ、大丈夫かの。ミツキは会場でもエルザ殿とビアンカから離れないようにな。」


「はい!」


 これで周囲を常時警護する女性の護衛が二名、離れての警戒には男性修道士二名、さらに影のようにどこからでも出没する全方位警護一名の体制として、ようやく、やや安心かと考えたコンスタン司教だった。


「前回の騒動ではほぼ被害がなかったせいで、公には事件なぞ起きておらんかのように伝わっているが、実際には二種類の襲撃が発生しておるからな。周りが護ってくれるとはいえ、ミツキもより、気をつけるんだぞ。」


「はい!」


 いつものように満面の笑みで元気の良い返事をするミツキを優しい眼差しで見ながら、

(まあ、ミツキには毒はもちろん効かないだろうし、それに…物理的な襲撃があっても、なんとかしそうではあるからのぉ)

 実は警護の状態がどうあれ本人の能力故にまったく心配ないだろうと考えている司教だった。




 その頃、教会から少し離れた貴族街のアクロディア公爵家の王都邸でも歓迎会に向けての準備が進められており、そろそろ会場へ向かう時間になっていた。


「アンネマリー様。それでは私達は先に会場に向かっておりますね。あちらにて合流とさせて頂きます。」


 「ええ、シャーリー、ベル。予定変更となりますが、私はもう少し準備に時間がかかりそうですの。後ほどアニスと一緒に向かいますので、先に会を楽しんでいらして。」


 当初は取り巻き皆と一緒に四名で王城へ向かう予定だったが、アンネマリーの準備が想定外に遅れており、先にシャーリーとベルだけが出発するよ

うに変更となった。


(う〜ん、アンネマリー様の準備、整っていたと思ったんだけど。アニスと話してから遅れるって言い出したのが気になるわね…)


 最近、とみに心配性となったシャーリーは、アンネマリーの急な予定変更に、またそれにアニスが関係していそうな事に不穏な気配を感じていた。


「ねえ、ベル。今回はアニスから何か調達の依頼とかされてないわよね?以前あったような薬や魔道具とか。」 


「え?アニスさんからの変な依頼はもう懲り懲りですから頼まれてもやりませんよ。事件に巻き込まれたらお父様や商会にも迷惑がかかりますし。」


 先日の毒殺騒ぎの依頼が明るみになると、それだけで既に致命傷となるのだが、規格外聖女の浄化力で証拠が有耶無耶になったのでセーフらしい。


「あ、でも魔道具の依頼はあったようなので商会の担当に引き継ぎましたよ。普通のランプの魔道具等だったので問題ないと思いますよ。」


「ランプだけ?普通の?そもそも何でアニスがそんな依頼をするのかしら。アンネマリー様の依頼なら公爵家の侍従や侍女から依頼されるんじゃないの?」


「あれ?そういえば…しかもなんだか大量に頼むような話もあったような…」


 シャーリーは嫌な予感が益々大きくなっていく。

 

「えーっと、もう少し詳しく教えてもらえる?」


「え、ちょっと、私では詳しい内容はわかりませんわ。えーっと、担当に詳しい内容を問い合わせるので少し待って頂けますか?」


「なるべく早くお願いね。会場に着く前には状況を把握しておきたいわ。前回の二の舞は嫌でしょ?」


 え、え、と慌てて周りに確認の指示を出すベルを見ながら、シャーリーは考え込んでいた。


(ランプの魔道具を…大量に?今日は夜会になるから、って王城だから暗いってことは無いはずだし。うーん、それとアンネマリー様が遅れるっていうのは?)


「あ、シャーリーさん、やっぱりランプの魔道具をかなり手配したそうですわ。それと……も一緒に頼んだようです。」


「え?何を頼んだの?」


 一緒に頼んだ物を確認して、シャーリーは益々わからなくなり、また不安が募っていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

真の悪役令嬢と天然ヒロインがガチで対決した結果 水巻 @watering

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ