第17話 聖教国の使節団

 聖教国の使節団一行が、ウェストフラン王国を訪れる日がやってきた。

 到着した一行を王国側の責任者であるラウール王太子が中心となった一団が王宮にて出迎えていた。


「フリードリヒ教皇聖下、ポッタ枢機卿猊下、遠路遥々お越しいただき誠にありがとうございます。我が国は聖教国からの使節団の皆様を心から歓迎いたします。」


「これはこれは王太子殿下自らのお出ましとは。丁寧なお出迎え、誠に有り難いですな。」


 予定より遅れた時間であったが、それには一切触れず、マーロ聖教国の使節団から進み出てきた、やけに豪奢な装いの小太りの人物が話していた。


「教皇聖下、枢機卿猊下、拝顔の栄に浴させていただき誠に有り難く存じます。」


「おお、そちらはアクロディア公爵令嬢ですか。これはこれはご丁寧に。誠に有難きことですなぁ。」


 先程から遠慮なしに話している人物、使節団の団長であるポッタ枢機卿が出迎えた王太子と婚約者の公爵令嬢の挨拶に対してにこやかに挨拶を交わしている。しかし言葉遣いは無礼であり、そもそも並んで控えている教皇を放置して勝手に振る舞っている時点で適切な対応とは程遠い。

 そこに涼やかな声が割り込んだ。


「ポッタ枢機卿。僕は紹介して貰えないのかな?」


「おお、これは教皇聖下。もちろん今、紹介しようとしておりました。」


「…王太子殿下、アクロディア公爵令嬢、はじめまして。今代の教皇、フリードリヒです。新たな聖女が生まれた事を是非祝福したいと思ったんですが、迂闊に動くわけにもいかず、仕方なく使節団について参りました。」


 教皇は失礼なポッタには一瞥しただけで何も言わず、構ってられないとばかりに、自由に挨拶を始めた。そのあけすけな態度とフレンドリーな内容に、ラウールもアンネマリーも面食らいながら、何とか初対面の挨拶を進めた。


「教皇聖下、枢機卿猊下、到着早々でお疲れと思いますので、一旦控えの間でお休み下さい。本日はこのあと歓迎の会を予定しております。準備が整いましたら、またお迎えに上がります。」


「ああ、聖女殿とはそこで会えますかな?」


「はい、ご挨拶の場を設ける予定です。」


 ラウールの言葉にまたもや割り込んで発言し満足そうに頷いたポッタに対し、フリードリヒは表情だけはにこやかに黙っていた。





 夕刻近くになり、段々と夕闇が迫ってきた王宮の一角で、この後の催し物の為に準備された小ホールに灯りが灯されていった。本日の歓迎の宴は関係者に絞った小規模とのことで、こちらの会場で行われる予定だ。

 国王陛下への謁見や正式な歓迎の宴については、より大規模になるため、遠くからの来賓が間に合う余裕を見て数日後に予定されている。本日は既に王都にいる関係者だけの集まりである。とは言え、それでも小ホールを埋める程度には出席者がおり、また本人が望んでなくとも関係者と認識され出ざるを得ない者たちもいた。


「なんで私までここにいるのかしら…」


「シャーリーさん、どうしたの?アンネマリー様ならもうすぐいらっしゃると思いますよ。」


「あぁ、ベル。そうね、うん、大丈夫よ。」


 小規模での必要な関係者に絞っての歓迎会と聞いていた。なのでやんごとなき方々のみで自分は出なくて良いと楽観的に思っていたシャーリーだったが、王太子の婚約者の取り巻きとしてだけでなく、今では聖女のマナー講師と周りから思われてる現状、王宮の役人や使用人たちには完全に関係者枠と認識されているのだった。

 段々としがらみの中に取り込まれていっているのを薄々気づいていたりいなかったり、複雑なシャーリーの気持ちに関係なく準備は進行していく。


 ホールには既に王太子とアンネマリーが控えていた。また聖教国の使節団のお伴の面々も、既にほとんどは揃っている。

 そこに主賓となる使節団の責任者達がようやく入場してきた。


「いやいや、ラウール殿下、アクロディア公爵令嬢、本日はこのようなもてなしをいただき誠に恐悦至極にございますな。」


 遅れた事をまったく悪びれもせず大物ぶった態度でポッタ枢機卿がゆったりと入ってきた。

 その後ろには相変わらずの笑顔のフリードリヒ教皇が続いているが、その目の奥は笑ってないように見えた。

 それに気づかないポッタ枢機卿は上機嫌に続ける。


「我々の為に催しいただき、わざわざすみませんな。これで皆さんお揃いですかな。」


「いや、その筈だったんですが…」


 ラウールがやや言い辛そうに答えようとした瞬間、正面入口が勢い良くバン、と大きな音と共に開けられた。


「遅くなっちゃった!ごめんなさい!」


 ラウールはそれを見て驚きつつホッとした表情になり、アンネマリーは厳しい目付きで睨むように見ている。

 ポッタ枢機卿は完全にあっけに取られた表情で、対称的にフリードリヒ教皇は驚きつつも愉快そうな雰囲気で見ていた。

 そしてシャーリーは入ってきたその令嬢を見て、そのまま気絶できないものかと真剣に考えていた。


(これ、私の責任にはならないよね!?)


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