第3話・【人滅の血刃】〔完結〕

 鉱山内部──ムチを打つ音と女性と子供の悲鳴が響き渡る。

「働け! 誰が休んでいいと言った!」

 鬼の角飾りを頭に付けた人間の男が振るうムチが、鬼の子供をかばっている鬼の女性の背中を強打する。

 鉱山を監督しているムチ男の手下の鬼の角を付けた男二人は、ニヤニヤしながらムチで打たれている鬼を眺めている。

 気絶した鬼の女を、ムチの柄で示しながら手下の男二人に命令する。

「水で顔を洗ってやりな……ガキの汚れた顔もついでにな」

 ニヤニヤ笑いながら、水が入った飼い葉桶かいばおけに女と子供の顔を笑いながら突っ込む手下の男二人。

「おらっ、顔を洗ったらしっかり働け! あははははっ」


 そこに、コロラド一家のボス『コロラド・アイト』と、高利貸しの男がやって来て言った。

「あまり、酷いことをするなよ……労働力が減る」

「へへっ、わかりました」

「オレは、鉱山内にある屋敷にもどるからな……何かあったら言ってこい」


  ◇◇◇◇◇

 赤い三日月──どこからか聞こえてくるトランペットの音色。

 金属の陰陽円盤状の武器を持った、ルチル・チルが疾走する。


 鉱山の中を羽毛の扇子せんすを持って歩くニッケル嬢。


 岩の陰からムチ打ち男の様子を、観察するクロム・バッファロー。


 口元を黒いマフラーで隠して、悪党のいる鉱山内の屋敷に向かうオニ・キッス。

 人滅の裁きがはじまった。

  ◇◇◇◇◇


 ムチ男の手下の一人が水瓶の水を、飲んでいると柱の陰から現れたニッケル嬢が男に向かって手招きをしながら言った。

「ちょっと、そこのお兄さん、あたしと少し遊ばない」

 鼻の下を伸ばした男がニッケル嬢に近づく、すかさずニッケル嬢は鍼のような角を折り、男の首に突き刺した。

「ぐぁ……」

「死にな……バァン」

 男の内臓が破裂して、口から白煙を出して男は絶命した。


 水を飲みに行った仲間がなかなか戻らないので、様子を見に来たもう一人の手下の男は。仰向けに倒れて、口から白い煙を昇らせて死んでいる仲間を発見した。

「おい、どうした? し、死んでいる?」


 暗闇から疾走してきたルチル・チルの金属の陰陽円盤状の武器が、男の首を半分の深さまで切断した。

 赤いスジを首に残して倒れ絶命する男。


 呟くルチル。 

「心配しないでいい、斬っても切断面が癒着して血は出ない吐血薬を塗ってあるから……キッスの刀に塗られている薬とは、少し成分が違うけれど……死ぬコトに代わりはないけれど」


 鉱山の中の監督休憩所で、金貨を数えていたムチ男は、ふいに現れたクロム・バッファローに驚き、ムチを振るう。

 バッファローは、振り下ろされたムチを片手でつかむと、そのまま自分の方に引き寄せた。

「うわぁぁ!」

 引っ張られたムチ男の心臓めがけて、バッファローの手刀が炸裂する。

 体にめり込んだ手刀は、そのまま男の心臓を握り潰し……さらに指先で、鬼の心臓の形に作りかえる。

「ぐあぁ」

「次に生まれ変わって来る時は、善人な鬼に生まれ変わってくる」


 コロラド・アイトと高利貸しの男は鉱山内の屋敷で、テーブルの上に鬼の角を外してくつろいでいた。

 高利貸しの男が言った。

「それにしても、ボスが持っている〝治外法権証明書〟の力はスゴいモノです……誰も歯向かってこない」

「じいさまの代に旧政府が発行した治外法権証明書がある限り……オレ無敵だ、あはははっ」


 その時、ムチ男の悲鳴が外から聞こえてきた。

「なんだ、今の声は? おい、外の様子を見てこい」

 屋敷の外に出た、高利貸しの男は死んでいる仲間を発見して慌てる。

「うわっ!?」

 その場から逃げようとしていた高利貸しの前に物陰から現れるオニ・キッス。

「どこへ逃げるつもりだ……鬼の皮をかぶった人に逃げ場はない、地獄の鬼に遊んでもらえ」


 高利貸しが銃を構えるよりも先に、キッスの抜刀が高利貸しを斜めに斬る。

 背を向けたキッスが、数を数える。

「一つ……二つ……三つ……悪心を、抱いたヤツは崩れろ」

 斬られた高利貸しの体が斜めに崩れ落ちる。

 去りながらキッスが呟く。

「治外法権証明書を持った人の悪党は、司法の連中に任せる」


 コロラド・アイトは、惨殺された仲間の死体を見て慌てて鉱山の外へと飛び出す。 

 鉱山を出たコロラド・アイトの首を、待ち構えていたプレーン・ナイトが投げた投げ縄で絞まる。

「ぐっ!?」

 雇われ保安官のプレーン・ナイトが言った。

「おまえには、司法の裁きを受けてもらう……黙秘権は認められない」

 コロラド・アイトは司法列車の、裁判車両へと連れていかれた。

 裁判官席に座る、鬼女のシンシャが言った。

「おまえの罪は明白……何か言うことはあるか」

 薄笑いを浮かべる、コロラド・アイト。

「オレには、治外法権証明書がある……こんな裁判無効だ、人の弁護人を立てろ」

「いいだろう、人間の弁護人ここへ」

 人間の弁護人が一人弁護席に出てきた。

 同じ人間を見て安堵する、コロラド・アイト。

「あんたも、同じ人間ならわかるだろう……鬼の裁判は無効だと言ってくれ」

 弁護人が静かに口を開く。

「弁護の余地なし、治外法権証明書の剥奪が望ましいかと」

 次の瞬間、数多くの鬼を不幸にして直接・間接に死亡させてきた、コロラド・アイトの有罪が決定した。


「判決! 有罪、人食い鬼のエサとする」

 裁判車両の天井が開き、現れた巨大な人食い鬼がコロラド・アイトを摘まみ上げる。

「うわぁぁぁっ! やめろうぅ! ぎゃあぁぁ!」

 コロラド・アイトは、鬼に丸呑みされて消えた。

 シンシャが閉廷を告げる。

「明日の朝になれば悪党は、ウ●コになって消えているだろう……これにて閉廷」


 夕暮れに染まる新大陸の大地を、シュテン号は走る。

【邪狩流】の面々は思い思いの時間を過ごす、鬼の皮をかぶった人の悪党の人滅は続く。


 鬼人国の国花の〔砂漠鬼ユリ〕が、夕焼けの中で静かに揺れていた。


〔完〕

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