今この時を、ブラザー

俺は、支える者もなく、捧げる手もなく、一人、世界の絶壁に立ち、生まれかわるごとに、絶歌を生んで、怒りのままに、ペンを走らせ、正体不明な影におびえながら、囁く悪魔の誘惑をはねのけるために、今を断った。粉々になった、憎しみの劣情が、俺を駆り立てている。しかし、轟わたる空の大群が、黒いカラスとなって、俺に襲い掛かる。腐った魂。死肉を食らうような牙。俺は、お前を救う悪魔になりたい。そして、俺を呪えばいい。好きなだけ呪い続けろ。そして罪の意識にさいなまれ、俺を絶壁から蹴っ飛ばせ! そしたら、お前は生きられる。のうのうと、生きてきたわけではない、俺は死の影を飛び越えて、空へ。大きな空へはばたく、しかし、それすらも、木霊となって、帰って来ない。だから、生きろ! と俺は叫ぶ。ただ、生きろと! そして、また這い上がって来いと。俺は叫び続けている。沈黙と、ひと時の流星が、太陽を凍らせるとき、お前は見るはず、悪魔が天使に変わる瞬間を! そして絶歌は終わる。ここからは、法悦の歌。酔いしれるように、呼吸して、エーテルを飲みながら、さまようように、過去から逃れ、今とぶつかれ!

そして、呼吸を繰り返せ、規則正しく、脈を打ち、息をして、確かめろ。それが「命」だ! 命の重みが知りたいか、それならば、笑え! すべてを笑い飛ばすんだ。そして、祈れ。俺は忘れる。祈ることすらも。それほどに苦しみの中にあった。でも、俺は、信じている。今この時を、緊張と張り裂ける鼓動の中で、命を生き、きる。そうやって、夜明けを迎えて、また眠れ。そして、明日が来たら、またその繰り返し、そのまま、そのまま、いつか苦しみが終わることを信じて、耐えるんだ。苦しみは俺が葬り去る。だから、兄よ、帰って来い、その意志だけでも、支えになる。そして、諦めるな。命の重さを知れ。世界に、苦しんでいる人はたくさんいる。俺も、あなたも、そこの君も、全員、苦しみの中を必死に生きている。決死の覚悟で、生き貫く。それが人間だ。あきらめるな。希望はある。俺を信じろ。俺は、守る。そう、俺の歌を聴くんだ。その歌が届いているうちは、兄よ、俺とあなたは、永遠の兄弟だ。それから、また会おう。いつかの夜空を、いつかの夜明けを、共に語り合おう。そして、共に生きよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る