レクイエム

恋の夢から覚めて。


失意のうちに。夜明けの空を眺めやる時。


不意に、鼓動が早くなる。


ときめきが、合唱のように、夜空へ澄み渡り、果てしのない救いに変わる時、君はどこにいたの? と誰かが言った。


それは、悪魔。きっと、そう、悪魔だ。

でも、その悪魔は、微笑んでいた。


一つの愛が、故郷の空に帰る時、壮大な交響曲が鳴る。

その中に配置された、スコアの波の中から、一つの旋律が、湧き上がる。


レクイエム


大きな宇宙の天体が、月の雫を黒く染め上げる時、黎明の予感が、鼻をなでる。

まるで、フランキンセンス。それは、愛と悪魔の交わりのような、そんな奇跡。

 


レクイエムは、誰のために鳴る?


答えられない。


しかし、レクイエムは、死者の心に響く声。

ざわざわざわ、と全身を駆け巡る神秘の予兆。

そして、全身に一気に広がる、愛のサイン。


聖歌隊は歌う。

レクイエムをかき消すほどの声で。

力強く。励ますように。


それならば、人々は声を合わせなければならない。

打ち勝つ。何に? 悪に。

悪とは形のないもの。心の奥底に眠る、小さな元型。

怒りの日に、迎えに行った砂上の楼閣。そして、交響曲的レクイエムが鳴り響く。

平和の叫び。血の声。慟哭の涙。

けたたましくなる砲撃のサイン。そして、誰が笑う?

そう、誰も笑わない。


それを笑うものが、悪魔だ。

それを泣く者が、人間だ。


どうだろうか。あなたは、どうだろうか?

本気だろうか? あるいは、嘲笑だろうか?


サイン 見逃してはいけない、怒りの日の記憶を。

そして、握手をして握り合った体温を。

ぬくもりを、冷めやらぬ希望を、そして、偽りなき瞳を。


向けなければならない。銃口ではなく、愛の視線を。

そして、恋に落ちたなら、君は悪魔ではない。心を持った人間だ。


思い出が、去来しないか。思い出が、見えないか。痛みが、解らないか。

解る時に、すべての謎は解ける。


そう、悪魔とは、愛のことだ。ゆえに、悪魔はいない。


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