第8話愛しのレラ

あの日のことを覚えているかい?


僕の記憶はおぼろげだ。


イヤホンの残響の中で、君の笑顔がおぼろげに見えた。


かすみゆく朝の静寂の中で、僕は門をくぐった。


愛しのレラ。


君の名を呼ぶ。


愛しのレラ


君は優しく微笑みかけた。僕の傷をそっとなめとるかのように。


君は笑顔で、僕の名を呼んだ。


もうもうと、煙る、雲の、流れゆく、世界の中で。


僕と君は、言葉を交わした。


単なるあいさつ。でも、僕の胸は高鳴り、鼓動は早まる。


愛しのレラ、君が引きずる苦悩の陰り。


僕は、そんな君を愛している。


偽善? 違う、それは、憐憫? ちがう、裏腹にうそをついてごまかしている。


気づいたか、そう、レラ。


僕の愛には、偽りがあることを。


僕は偽善者、偽物の預言者。そして、破壊者。


それでも、レラ、君は訊いてくれるのか?


僕の中には、混沌があることを。


想い、思い、重い


意識に深く刻み込まれた十字架


傷を負った過去を。


君は、きっと、こう言うか?


「それでも、愛してる」

「それでも、憎んでいる」


レラ。君が好きだ。


でも、僕は、絶望の中で、光を灯し続けてきた。


重い。でも、君の苦悩はもっと重い。


それから、先のことは、鐘の音が知っている。


すべてを捨て去っても、たとえ、すべてを敵に回しても、僕は守る。


そう、レラ、君だけを。ただ君だけを。



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