2節 フリバー・ライヘルド18
フリバーは自身の世界について考える。
「フリバー・ライヘルド」の世界。
彼の世界は、正に
魔法と剣の世界。
傷の治療も魔法だより。例えば。
魔法が
間に合うだけで良い。失ったものは戻ってくる。魔法の世界。
そして、此処も“異世界”の筈だ。
それも“神”が存在する。夢物語の様な世界。
しかし、人が傷を治すと言う一点では、余りにリアル。
回復はする。傷口は治る。でも、
血を失えば、そのままで。腕を失えば、そのまま。
魔法が間に合っても、失ったのであれば、
自分の世界と比べれば、余りにも
そう、そんな、ソレだと、まるで。
――……
いや、ソレが、この世界なのだろう。
“神”なんて非現実的な存在が居ながら、妙にリアルがある世界。
それは「地球」と「異世界」の違いであるぐらいでしかない。
「地球」では異常な事でも、「異世界」では普通であると。
だから、この“世界”の在り方を問題視はしない。
問題は、その
この事実だ。それも、酷く中途半端に。
フリバーは昔を思い出す。
ほんとに昔。「転生前」の自分。魔法なんて存在しない地球に生きていた自身の事。
それが「転生後」。魔法が存在する、今の世界に生まれ落ちて、大きく変わった。
無かった筈の、魔法が使えるようになった。能力が使えるようになった。
それは、生まれ変わった先の「世界の在り方」に「彼自身」が適応したからだ。
生まれ落ちた先が「そんな世界」だったから。魔法が無かった筈の身体に魔法が宿った。
いや。生まれ落ちた先の「身体」が。世界に合わせ、造り直されたから、魔法が宿った。きっと、コレが近い。
「転生前」の身体。……これが「転移」だったのなら、どう変わっていたかも分からない。
もしかしたら、魔法なんて使えないままなのかも。
何にせよ。この“異世界”でも、フリバーは魔法の類が使える。
今の身体が「フリバー・ライヘルド」だからこそ、魔法が使える。
これは、例え地球に戻っても変わらない。
だって、そう、身体が作り変えられてしまったのだもの。
今の自分の身体は、どうしようもなく「魔法世界の住人」なのだ。
だから、これが「変わる」と言う事は、「身体が作り替わる」に等しい。
難しい事じゃない。
フリバーにとって、魔法とは腕一本と表そう。
部屋を移動しただけでは、腕は絶対に取れやしない。
普通に考えて、無くならないはずだ。
それが、この世界ではどうだ。
部屋を移動した。
しかし、
それも、いつの間にか。気が付かないほどに、自然に欠けていた。
でも、盗られたので訳ではない。きっと、最初から欠けていたのだ。
それが、今のフリバー達だ。
彼らは魔法の類は使える。
だが、完全じゃない。普段の自分より劣っている。おかしい所が出来ている。
異常なはずなのに、言われるまでは気が付かない。「身体を作り変えられた」に等しい筈なのに。
異常に気が付かないまま。
フリバーの世界の
「回復魔法が殆ど意味をなさない」と言う、この世界のルールに。
これが「
フリバーは事実に気が付いて、自身の手を見る。
――可笑しいのは、本当に「回復魔法」だけか?
他にも可笑しい所が、この世界のルールに沿ってしまっているのではないか?
何とも言い表せない、恐怖が身体を襲う。
「――……如何したのですか?」
「!!」
声を掛けられ、フリバーの意識は引き戻される。
額に冷や汗を流しながら。彼は、此方を見据える“死”を見た。
その視線から逃げるように目を逸らす。
ただ、今は自分の身体が怖かった。
しかしだ。震える声を我慢しながら、フリバーはもう一度、“彼女”を見据える。
「――……回復魔法の、ルールは分かった。……つまり、俺達はこの世界のルールに気が付く暇も無く沿ってしまっているって、事だな……?」
「?……おそらく、そうかと。少なくともパルさんの魔法も、この世界では無意味であったようですよ」
「パル、ちゃんの?」
「はい。なんでも『僅かにでも生きているのなら、どんな怪我をも完治させる』と言っていましたが。――それは効いていませんでしたね。魔法を掛けた対象者は『失血多量でショック死』……と言う結果になりましたよ」
「――!!」
頭が、白くなる。
パルと言う少女の力に。
「
「神代級」じゃないか。
そんな「神代級」の魔法が全く効かなかったなんて。
それも「失血多量でショック死」など。リアル過ぎて、失笑も浮かばない。
だからこそ、恐怖を抱く。
「他の、他の魔法はどうなんだ?魔法だけじゃない。俺の世界にはスキルもある。そっちはどうなんだ?」
自身の力が、気が付く暇も無く失っている。その可能性を見出して。問いかける。
だって、それはフリバーにとって、身を守る術が無くなる事。
もしも、今この瞬間。“彼女”が襲い掛かってでも来たしたら――……。
“死”は無言だ。無表情のまま、フリバーを見つめる。
“彼女”が、小さく俯く。
「いいえ。そちらはご安心を」
「――!」
「『回復魔法』以外の能力は全て、そのまま能力が落ちる事無く、使う事が出来ますから。断言、してあげましょうか?」
その不安を、まるで察したように。
相変わらず表情はなく。しかし、真っすぐな視線で。
その瞳に嘘偽りを一切混ぜず、言い切った。
◇
沈黙が流れる。
彼女の瞳を見て、フリバーの中に僅かに安堵が芽生えた。
あまりにも、彼女の瞳が真っすぐと、自分を映し撮って居たからだろうか。
「そう、か」
その声は思わず漏れたモノだ。
下を見て、胸を撫でおろす。
ただ、疑問は募った。
「――……でも、なぜだ?」
「はい?」
「なんで、回復魔法が使えないんだ?」
その疑問は自然と口から出た。
“死”は、フリバーの顔を見つめる。
少しの間、彼女は傾げた。
「だから、当たり前じゃないですか。失ったらそれで終わりの筈です。それを唯の一瞬で元に戻すなんて。身体の構造的に無理があるでしょう。――……そんなの、神様にしか出来ませんよ」
と、至極簡単に。「余りに当たり前」の指摘を零すのだ。
残酷で、ただ残酷なこの世界 海鳴ねこ @uminari22
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