2節 フリバー・ライヘルド16
「だったら、次の質問だが――……」
「先に言っておくことがあります」
次の問いに移る前に、“死”が遮る様に言葉を零した。
“彼女”の黒い瞳が、フリバーを映す。こちらの返答を聞く前に“彼女”は続けた。
「私は、貴方を元の世界に返す力はありません……。先に言っておきます。謝罪も送りましょう」
――申し訳ありません、と。
フリバーは、これまた息を呑んだ。
しかし、此方に関しては直ぐに笑みを漏らす。
「原初の二神」そう呼ばれ、『異世界人』を転移させる力を持つエルシューと同等の力。それ以上と恐れられている“死”だ。期待していなかった訳じゃない。
しかし、こうもはっきり言われてしまえば。言い返す処か、何故か文句も湧き上がって来ない。呆れが頭に浮かぶぐらいだ。
まあ、そうだよな――と。彼女が、そんな力持っていたら、エルシューの提案は蹴って今すぐ帰る。
そもそも、次に“彼女”に問いただそうと考えていた件は、別物だったのだが。
フリバーは間を置くように、息を付く。
「――……『魔法』について聞きたかったんだが」
こちらの言葉を聞いた“死”は、小さく首を傾げた。
「フリバーさんは、元の世界に……。いえ……」
何か言いかけて、“彼女”は口を閉ざす。
“彼女”はどうやら、既にフリバーの望みを知っていたらしい。
だから敢えて。問いただされる前に、先手を打った所か。
フリバーは笑みを浮かべた。
「聞こうと思っていたが、そうはっきり言われたら、な。別に不思議じゃない。
この言葉に。“死”が不機嫌そうに、僅かに眉を顰めた。
“
ただ、これぐらいの嫌味は許してほしい。
「コレだけは聞かせてくれ。エルシューの他に、異世界から人を呼べるほどの力を持つ“神”は居るのか?」
続けざまに問いただす。核心を付く重要な問いだ。
“死”は表情を戻し、無表情でフリバーを見た。
「……いえ、残念ながら。人を呼べるのはエルシューだけです」
そして、最悪な肯定を送ってくれるのだ。
「そうか」
小さく、ため息を零す。一度だけ、目を閉じて、仕方が無いと。
切り替えを早く。改めて、“死”に向き治り。
「だったら、さっきの問いに戻る。この世界の俺達の『魔法』について、教えてくれ」
と、真剣な面持ちで、フリバーは“死”に問いただす。
◇
「貴方方の『魔法』……ですか?」
フリバーの問いに“死”が呟く。理解できないと言う様だ。
当たり前か。苦笑を浮かべる。
フリバーが気になる点。それは2つ。
「詳しく言えば『回復魔法』の類だ。ちょっと気になってね」
「回復……?」
「効力が変わっている。『傷の完全完治』から『傷の表の補修』にな。完全に確かめてはないが、コレはどういう事だ?」
まず1つ。それが、当初から気になっていた「回復魔法」
ステータスで確認した時。フリバーの回復魔法の「効力」が変わっていた件。
此方に関しては、正直言えば、パルと言う少女に聞きたかった。
なにせ、彼女は一度死と戦い負けている。ブレイルの話を思い出すに、彼女は
彼女も自分と
簡単な話しか聞いてないが、リリーの父親の件もあるし。
結果も何も、今のパルから話なんて聞けやしないが。
「……それは、今後の貴方の生活に支障がありますか?」
フリバーの問いに、“彼女”は問い返す。
大きく頷く。大ありだ。
「ああ、俺の世界では『回復魔法』は重要で、当たり前だったんでね。それが変わっていると、困ることが起きる可能性がある。――今後、な」
最後は妙に強調して、僅かに“死”への視線を強めて。
今は、フリバーに
その時。回復魔法が可笑しいと、此方とも困る。
「死が無い」とか関係ない。「死にたくない」「傷は付きたくない」。みんな同じだろう。
だから、最初のうちに聞いておきたかったのだ。この妙な違和感に関して。
“死”は目を逸らす。”彼女”からすれば、自分が不利になる可能性があるのだ。言いたくないだろうが。
「……簡単な事です。『傷は治っても失ったものは戻らなくなった』。貴方方の魔法は全てこのように変更されている筈です」
杞憂であったらしい。意外と言うべきか。“彼女”は答える。
簡潔に、明確に。正確に。
フリバーは、その「答え」に傾げた。
“死”はフリバーの言葉を待たずに続ける。
「そのままです。手を切ったので魔法を使った。その結果、回復するのは、表面だけ。傷口は塞がりますが、血は元には戻らないと言う事です」
フリバーが、微かに眉を寄せる。
口を噤み、少しして、開く。最悪な答えが頭に浮かんだ。
「――……ソレは、
「いいえ。少し足りません」
“死”が首を振って否定する。
「傷口は完治するが、流れ出した血――。つまり体液等は、戻らない。……こうか?」
「――はい」
“死”が肯定する。
それは、フリバーが考えた、最悪な答えの肯定でもあった。
「た、とえばだが。腹を切り裂かれた、血が沢山流れた、魔法を使った……どうなる?」
「……傷ついた身体、肌や肉。内臓の補修までは出来ますが、流れ出した血はそのまま。普通に考えて、死ぬでしょうね。血足りなくて」
「腕が無くなった、くっ付けようと魔法を掛けた……どうなる?」
「無くなった物はくっ付きません。普通ですよね?傷口の縫合が行われるだけです」
例えを上げていくたびに、核心する。
聞けば聞くほどに、思う。
それは、
しかし、
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