第5話 消灯

 あれから色々と話をした後、美友みゆは約束通り直弥なおやの夕飯を軽く作ってから帰って行った。

 時刻は回り、二十二時。


 「じゃあ寝るか。緑桜・・(みお)」


 部屋の電気を消しながら声をかける直弥。普段はこんな早くには寝ないのだが、今日は色々あって疲れていたため、もう布団に入るところだった。


 「あの、兄さま。少しいいですか?」

 「ん? ああ、どうした?」


 直弥が横になる前に、枕元に置いたスマホの上に立つ小さすぎる少女——緑桜が話しかける。


 「兄さま、今日、わたしを受け入れてくださるのが随分早かった、といいますか……、ほとんど最初からだったと思うんですけど。こんなに小さくて、生身の身体もないわたしなのに、どうしてなんでしょう……?」


 「んー、そんなにおかしなことかなぁ……?」


 直弥は首を傾げながら布団に入り、緑桜の目線に合わせるように横になる。


 「わたしとしては嬉しかったんですけど、普通はもう少し困惑すると思うんです」

 「確かにそうかもなぁ。でも俺、漫画とかゲームで似たような展開、よく観てるからな」


 なんでもないような顔でそう話す直弥。


 「あと、緑桜を最初に見た時、思ったんだよ。目の前に妹がいる……。って」

 「そういえば兄さま、あの時わたしが言うより先に、妹って、言ってましたね……」


 夕べ、二人——美友を入れて三人が出会った時のことを思い浮かべる緑桜。


 「ああ。俺、ゲームとかで妹キャラが出てくる時にも、何となく分かることがあるんだけど、緑桜の時はそれをもっと強く感じたっていうか、なんていうか……。すまん、説明が難しい……」


 直弥は少し歯痒そうにそういったが、緑桜は「大丈夫です」と言ってくれる。


 「とにかく。それで緑桜が俺の妹だって言われた時、なにかがピタッとハマった感じが強くて、困惑とかは薄かったんだよ」

 「な、なるほど。兄さま、なんだか凄いんですね。それで最初から仲良くしてくださったと……。兄さまは人見知りと聞いていたのですが、そういうことなら納得です」

 「俺は人見知りじゃない。……って、毎回言ってるんだけどなぁ……」


 本気でそう思っている直弥は、やれやれと肩をすくめる。


 「でも、緑桜の方も最初から普通だったよな」

 「わたしは、兄さま専属の妹として創られましたから。美友さんのことも、兄さまの幼馴染として登録されていましたし」

 「その割には、俺が妹キャラ好きだとかは、知らなかったよな……?」

 「はい。学校や交友関係については聞いているんですが、趣味趣向についてはあまり。兄さまと実際に関わって、知って行った方が良いとのことだったので」

 「なるほどな」


 そもそも直弥が、妹が欲しいと言ったのは今朝のことなので、緑桜がそれほど多くの情報をもらっているわけはない。だが、直弥はそんなことは気にしていないか、思い至っていない様子だ。


 「でも、そのおかげで沢山お話ができて、こんなに早く仲良くなれたのでよかったです。やっぱり実際に会うまで不安もあったので」

 「そんなに焦んなくてもいいんじゃねぇか。これからずっと一緒にいるわけだし。それに、なんとなく緑桜とはもっと仲良くなれるような気がするんだ。ただの直感だけど」


 照れ隠しにそんな言葉を付け足す直弥に、緑桜は明るくかえす。


 「わたしのことを一目で妹だと言い当てられる人なんて、世界中で兄さまくらいです! そんな兄さまの直感なら、説得力があります!」

 「はは、そうだな」

 「はい! そうです!」


 と、元気な微笑みを見せる緑桜に、直弥の顔もどこか優しげだ。


 「それじゃあ、そろそろ寝るか。って、緑桜って眠るのか?」

 「いえ、睡眠という機能はありません。兄さまが眠られてからは、自己メンテナンスを行います。あえて言うならそれが睡眠ですね」

 「そうなのか。わかった。一人寂しく起きてるとかじゃなければ、いいんだ……」


 眠気が出てきたのか、目をこすりながら応える直弥。


 「はい。明日からも、よろしくおねがいします。おやすみなさい、兄さま」

 「ああ……。おやすみ……緑桜……」


 二人が出逢った日は、こうして過ぎて行った。


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