第35話 彼女が本当に求めていたものは?

 ある日の休日にレイアさんとメルに呼び出された。どうして呼んだのかを二人に尋ねると、


「今日の飛行機で海外に帰るんだけど…。」

 レイアさんが外国に帰ると言ってきた。


(やっぱり…、見た目通りの外国人設定だったんだ…。)


「メルも、元の世界に帰るんだ~。」メルも帰ると言い出した。


(こっちは突然、何を言っているんだろ?)


「紗良ちゃんは本物と登録されてるから、誰も文句を言われないだろうけど、メルの席はこの世界には存在しないんだよ…。不正入国みたいなやつなの。」

 メルは合法手段でこの世界にいるべき存在では無いと言った。


「メルが世界から居なくなるとどうなるの?メルという存在の記憶が消えるとか?」

 そう尋ねると、


「うん、紗良ちゃん以外は忘れちゃうと思うよ?陵くんもメルの事を忘れちゃう。だからね、他の人にはバイバイを言っても仕方ないんだ…。」

 メルはそこまで言うと、鏡の中へ入ろうとしたので、


「待ってよ。突然過ぎるよ…。」

 さすがに一番の話し相手だった彼女がいなくなる事に対応出来ずにいると、


「メルと紗良ちゃんは本来、出会うことが無かった存在同士なの。だからね…、気にしない方が良いんだよ。」

 彼女は爽やかにバイバイと告げて鏡の中に入って行った。



 少し経ったあと、メルが入った鏡を触ったが当然、中には入れない。


「入れないのは、紗良ちゃんがここの住人だからだよ。私も飛行機の時間が来るから…、そろそろここを出るね。」

 レイアさんが陵の家を出ていこうとしたので、見送ると言って一緒に出て行った。


「私だけ、陵の家にいるのも変だし、メルはあんな風に軽く去って行ったし、レイアさんも何故、今日なんですか?」

 突発的な行動になった理由を聞くと、


「えっ?メルちゃんには、2週間前ぐらいにちゃんと伝えたよ?紗良ちゃんにも話しておいてねって言っといたのに…、伝え忘れたのかな?」

 大人のレイアさんは事前にメルへ伝えていたらしい。


(レイアさんの出発の日に合わせたのはメルだったのね…。知らせずに突然、行動するサプライズのつもりなのかな?)


 何も言わないメルに腹を立てていると、


「きっと、メルちゃんはお別れの挨拶をしたく無かったんだよ…。紗良ちゃんを親友だと思ってたし、しんみりとしたお別れが苦手な照れ屋さんなのね。」

 レイアさんがメルの気持ちを代弁するように伝えてくれた。


「確かに…、彼女には、そんな所があると思います。レイアさんも話し相手になって下さって、ありがとうございました。」

 彼女に話を聞いてくれたお礼を伝えると、


「良いのよ…、少しの間だったけど、三人でああでも、こうでも無いと言ったりして、私は楽しかったわ。じゃあね…、バイバイ。」

 彼女は通りに出るとタクシーを拾って、空港へ向かった。



 メルとレイアさんにお別れをしたあと、帰ろうと道を歩いていると、


「紗良さ~ん。こんにちは~。」死神の使いの三河さんが飛んできて、


「三河さん、どうかしましたか?」

 きっと話を聞いて欲しいのだろう、上機嫌な彼にそう尋ねると、


「聞いて下さい!私、昇進しました。現世の担当では無くなったのです!」

 彼は昇進を伝えにやって来たらしいので、


「ああ、おめでとうございます。これで、私とも会うことは無くなりますね。」

 これで厄介事に巻き込まれる事も無くなるなと安堵したら、


「あっ、今度、引き継ぎの方を紹介しますね?」

 彼がそう呟いたので、聞かなかったフリをしてその場を去った。


(メルもいないのに、協力なんてしないよ…。)

 今後は何かを頼まれても協力しない事にしようと決意した。



 家に帰ると、紗奈が甘えて来たので、


「ゴメンね、お姉ちゃん…今日は疲れてるんだ。」

 と妹に告げて、親友との別れを惜しみながら、その日は過ごす事にした。



次の日の朝、姉の心配をしていた紗奈に、


「お姉ちゃん…、何があったのか分からないけど、元気出してよ。」

 と言われたので、


「うん、大丈夫。紗奈…、心配してくれてありがとう。」

 本気で姉を心配してくれる妹に笑顔を見せて安心させる事にした。


「良かった、心配したんだよ?ね~、メルちゃん。」

 紗奈が何故か、メルの名前を呼んだので、聞き返そうとすると、


「紗良ちゃんはメルしか友達がいないし、ほんと、寂しがり屋さんだよね~。」

 そう言って、なに食わぬ顔をしながら、紗奈の横にいた。


「メル!なんでウチにいるのよ!帰ったんじゃ無いの?」

 慌てて、彼女を問い詰めると、


「メルはただ、紗良ちゃん家に引っ越ししただけだよ?メルがいないと紗良ちゃんは一人ぼっちですぐに泣いちゃうからね。三河さんに頼んで、紗良ちゃんのウチの子にしてもらったの…。だから、メルと紗良はずっと一緒だよ?」

 そう言ったメルが抱き付いて来たので、


「うん、大好きだよ…、メル。」

 大好きな親友にまた会えた事に感謝した。


 その後は三人で仲良く朝食を食べたあと、学校に向かう道中で、


「ねえ、メル。陵じゃなくて、私の家に住もうとしているのはなんで?」

 レイアさんがいなくなり、彼を好きなように出来るのでは無いのかを聞いたら、


「メルは陵くんじゃなくて、好きだったあの頃の陵くんの中身にいた紗良ちゃんが好きなんだって気付いたの。だから、強引にデータを仲良しカップルとなるように書き換えてもらったの。愛の形は人それぞれだもん。」


 メルが手を伸ばしてきたので、その手を握ると、


「分かった。じゃあ、行こっか、メル!」


 親友同士、いつまでも二人で仲良く、いつもの学校までの道程を楽しく会話しながら、歩んで行った。

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彼女はゲス野郎の俺が好き サトリ @satori-482

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