第32話 仲の悪い三人

 俺とメルを性的な感情で触らなくなった陵の原因を探るため、大きくて変な館に来ていた。そこで見たものは…、


「あなたたちは陵を取り返しに来たの?なら、もう少し待ってね。あなたが大好きな陵のアレが興奮する麻酔を打った所だから。」

 女のキバには興奮剤の作用があるらしい。


(だから、陵は女の体に夢中で、メルの問い掛けに反応すらしないのか…。)


 無我夢中で体を触る陵を見ると、取り憑かれているようなので、何となくからくりが分かった。


「なるほど…、メルを求めに答えなくなったのは、体から性欲を奪っていたんだな。ここで一週間分の性欲や精液を搾り取るから、陵はエロい気持ちが無くなった、吸血鬼っぽいキバはダミーで中身はサキュバスって所?」


 女にそう尋ねると、笑みを浮かべて…、


「あなたは本当に良い女だけど、嫌われ者っぽいし、可愛げが無いわね。」


 色々と考察して、指摘してくる事を可愛くないとから黙っていろと言われた感じがしたので、女の中身はサキュバスだと合っている。すると、次は性行為でもするつもりかなと思い、


「ねえ、メル。性欲を奪われて陵はゲス行動をしなくなったし、平和になったって事だよね。なら、こんなに良いことは無いんじゃないのかな?」


 エロい陵では無くなった事で、そう言う心配をしなくても良くなったそれは喜ばしい事だろうと言うと、


「紗良ちゃん、関係無い人は黙ってて!それとも、あの年増ババアの味方なの?」


 メルは敵意を剥き出しに陵を操る女の仲間みたいな言い方をしてきた。


「そう…なら、勝手にすれば?私はここで見るだけにするよ。」

 メルにそう告げて…館の入り口まで行くと、


「仲間割れとは、人間って、本当にみっともない。」

 と年齢は明らか年上だろうサキュバスのババアに言われたので、


「いや、もっとややこしい人を呼ぶ、だけだよ?」


 扉を開けると、陵の奥さんのレイアさんがやって来ていた。


「こちらにウチの主人がお邪魔しているって聞いたんだけど、あら、陵さん…。人間じゃないにしろ、私以外の胸の中で何をしていらっしゃるんですか?」


 さすがに毎週、サキュバスの館に通い詰める夫に寛容な彼女も少し怒っていた。


「あら、あなたが陵の…。そこの幼女や中身が可愛くない女と言い、みんな、陵の性エネルギーの虜なのね?でも、今日は私の物なの、だから…お引き取り願えないかしら?」


 サキュバスがレイアさんとメルに帰れと言ったので、


「デカ乳レイアも年増ババアも消えて貰えないかな?陵くんはメルのモノだよ!」

 メルが二人に挑発すると、


「メルちゃんはどうして、こんなに口が悪いのかしら…、陵さんの妻の私が唯一、浮気しても許している相手なのに、私への敬意の言葉は無いのかしら?」


 口の悪いメルにも理解できるように優しく嗜めると、


「そう言う所だよ!私はいつも余裕です~って所が気に入らないの!レイアは引っ込んでてよ。」


 メルは彼女に口を挟まずに黙って見ていろと告げると、


「メルちゃん…、冷静に考えなさい。こう言う状態の時は一番邪魔な奴から消すのよ?分かったなら、まずはあのモンスターを処理しなさい。」


 レイアさんはメルにサキュバスを討伐しろと言っていた。


「殺し合いたいなら、勝手にやりなよ。」メルは協力を拒んだため、


「まったく…、私はメルちゃんや紗良ちゃんよりも年上よ?どっちも手を出せないなら、私が討伐しますね。」


 レイアさんが持っていた杖を振り上げると、刃が飛び出して斧になった。


(レイアさんはヒーラーに見せ掛けた、ゴリゴリの戦士キャラだよね。俺やメルよりも刃物の扱いに長けているし…。)


 レイアさんが斧を振り回すと陵を盾にしてサキュバスは攻撃を避けた。彼女もそれを理解したため、手を出せない状態になり、すぐに攻撃を止めてしまった。


(陵、邪魔だな…。周りの事など見向きもせず、一心不乱に胸を触り続けている。陵のアレを止めさせない限り、手を出せない。)


 俺は完全に洗脳されている陵とサキュバス、隙を突こうとするメル、正面から攻撃をしようとしているレイアさんの三すくみを遠目に見ていた。俺はあのサキュバスを討伐する気が無い。なんで、この世界にあんなものがいるのかは知らないが、まだ…様子見だ。


(裏にはきっと黒幕がいる…。)


「あなた達って、三人とも仲が悪いのね。攻撃をする人と呼吸を合わさずに隙を突こうとしている人、なにもせずただ静観する人、そんなバラバラだから、陵が私の所へいつも来るんじゃ無いの?だから、人間は愚かな生き物なのよ…。」


 サキュバスは余裕をぶっている。しかし、メルもレイアさんも互いに会話もせず、二人とも陵をずっと見ている。恐らくは引き離す方法でも考えているのだろう…。


「ねぇ、あなたの後ろにいる奴は何者なの?」と尋ねると、


「若いのに随分と考察するタイプなのね…。本当に可愛くない女。」

 

 だいぶ、感付けかれるのを嫌っている。ほぼ、間違いなく…何かがバックにいる。それを気付かれたくなくて、わざと挑発したり、目立って、ここに足止めしているんだ。


(なら、あの後ろの扉の先へ行くことにしよう。)


「レイアさん、援護をお願いします。」そう言って、俺は走り始めた。


 レイアさんは無言で、斧を振りかざして道が空いた隙に滑り込み、扉を蹴り飛ばして先に進んだら、メルも無言で後ろから付いてきた。


「紗良ちゃんは乱暴者だね、扉を壊しちゃうなんて…。」と言ってきたので、


「陵はいいの?」と言い返したら、


「あの陵くんは偽者、あの女が作り出した肉みたいな物だよ。」


 メルは気付いていた。あの陵は体を触り倒す事はするのだが、女の方があまり喜んでいない。例え、相手が獲物だろうが、サキュバスなら、気持ち良さそうにするものだと感じたからだ。


「へえ~、怒ったフリをするなんて…、大人の女だよね~、メル。」


 メルはガキっぽい部分を出すのは身内にだけだから、あれが陵の偽者だと気付いた瞬間からは、ずっと…だんまりを決め込んでいた。


「紗良ちゃんの方が大人だよ~、あんなキモい乳デカ女と会話するんだもん。私なら、即行でぶちのめして本物の陵くんを見つけられずに、もう終わってたし…。」


 ありがとうと言ってきたので、お礼はいらないよ。親友だからねと答えて先を急ぐ事にした。

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