第29話 小学生のメルと自分を認めない男

 週明けの月曜日にいつも通り学校に行くと、ウチの高校の制服を着るメチャクチャ背の低い女の子が歩いていた。


(アレって小学生じゃないの?背が120㎝ぐらいしか無いぞ?)


「紗良ちゃん、おはよ~。」

 ジロジロ見ていると目が合ってしまい、笑顔で挨拶をされてしまった。


(俺にミニJKの知り合いはいないぞ?)


「おはよう、私を知ってるの?」知らないので聞いて見ると、


「失礼な親友だよ、メルに決まってるじゃん!」

 小学生JKがメルと名乗ったので、ピンと来た。


(メル…体、知らない女の子に取られちゃってるよ?)


 メルは週末、体泥棒に遭っていた。しかも、小さな女の子になってしまった記憶が無い。普通に小学生の体で高校生として登校していた。


(だから、行ったよね?変な事に巻き込まれる前に逃げろって…。)


 小学生のメルの隣に並ぶと、


「紗良ちゃんは大きくなったね~。見上げると首が痛くなって来たよ~。」

 自分の背が低い事にも気付かない。


 その後、色々と聞いて見ると、陵は何処かの髪の長い女性に体を奪われた事が分かった。生理中の体を腹痛と勘違いしているらしく、体が重くて動けないし、今日は大学を休むと家でメルは聞いたらしい。


(混沌としているな…、二人を元に戻して助けたいけど、紗良の体を変な奴に奪われるのも嫌だから、どうしよう…。)


 メルはただの女の子になっただけだし、問題は無いだろうが、陵の方はヤバい。もし、そのままで女の体の男子大学生という、カオスな状態になるし、辻褄もクソも無くなるぞ。まあ、その町はすでに混乱していそうだけど…。


 学校に着いて普通に授業を受けている小学生JKのメル。異常な状態に気付かない周りのみんな。この間の学校の女性化騒動と一緒だよ。誰も気付かない間に生活が変わっているパターンだよ。



 学校を終えるとメルと一緒に体泥棒が発生している地域に向かった。体を奪われる条件がランダムなら、どうする事も出来ないが、接触が条件なら、相手に触れなければ問題ない。境界まで行くと、やはり…その地域全体に世界が作られているみたいだ。


「紗良ちゃん、ここには何も無かったよ?体泥棒なんて存在していないもん。」

 小学生のメルは自分が小さな女の子になった事に気付いていない。


「メルは黙ってて、それより…ここら辺で小学生の女の子に会わなかった?」


 接触交換なら、会っているはずだと聞いてみると、


「会ったよ~、30歳くらいのお母さんと一緒にいた女の子がいて、体がしんどそうなお母さんの助けになりたいって言っていたと思うけど…。そのあと、意気投合して一緒に遊んであげたんだ~。」

 

 メルはその女の子とメチャクチャ接触していた。やはり接触が条件の一つだった。


 しばらく山手で隠れながら町の様子を伺っていると、大学生くらいの女性がランドセルを背負って歩いていたので、メルにあの子が寂しそうだから、遊んであげればどう?と声を掛けて向かわせると、子供大好きのメルは喜んで、その女性に声を掛けに行き、楽しそうに遊び始めると、


「お姉ちゃんの体、小さくていいな~。私、小学生二年生なのにお母さんよりも背が高くなっちゃって困ってたんだ~。お姉ちゃんみたい小さくなりたいな。」


 大人の女性と交換したと思われる体が不便で背の低いメルみたいになりたいと発した瞬間に、二人の体の位置が移動して、女子高校生の服を着た若い女性とメルだった女の子の体が入れ替わったみたいだ。


(なるほど、相手になりたいと願いながら触れると体を奪えるのか…。)


 黒幕が誰だかは知らないが、ソイツは違和感のある人間だろう…。


 互いに体を交換している事にも気付かないみたいで、大人の女性の体を得たメルは遊び終えたあと、俺の近くに帰ってきて、


「紗良ちゃんもかくれんぼしたいなら、一緒に遊べば良いのに~。」

 こそこそと隠れながら、動く行動をかくれんぼ扱いされた。


 しばらく歩いていると、メルの体の少女をようやく見つけたため、また遊んで来いと告げて、メルの体を取り戻させる事にした。さっきの子みたいに同じようにメルが遊んでいると、メルの体のまま少女が転んでしまい、泣き始めた。それを見たメルが慰めるが、小学生の中身の少女は痛いのが嫌だとメルに叫んで抱き付くと、再び、入れ替わり…、メルは自分の体を取り戻した。


 すぐにドラッグストアに行って救急グッズを買い、メルの体の擦りむいた腕や膝を消毒したりしていると、


「紗良ちゃんは優しいね。昔は私の後ろで見ている子だったけど、今はテキパキしていてカッコいいよ。」

 紗良が変わった事を話してくれたことに少しだけ罪悪感を覚えたが、


「メルが心配だもん…、親友だから…。」

 しっかり者の紗良としてメルの親友をしているだけだと話した。


 そして、メルに気付かない間に体が奪われるから、ここの人たちに触れてはダメだと注意した。メルもさすがにさっきの怪我をしている自分を見て、違和感を覚えたらしい…。


 体泥棒のからくりを理解したメルとみんなを元に戻そうと告げて、明らかに怪しい人間を探し始めた。すると…、一人のかなり美人の女性が好奇な目で見られているのを見つけた。


(アイツだ。体を交換した記憶を持っているから、とても似合う若い女性の服を着ているのに女装をした変態扱いを受けている。きっと、中身はおっさんか何かなんだろう…。)


「なんでなんだよ!せっかく女の体で女らしい服を着て楽しんでいるのに!」

 その女性は好奇な目に遭わされて、しょんぼりしていた。


「あんたか?神具で変な空間を作り出している奴は。」

 そう言って声を掛けると、


「誰だよ、僕の姿を笑いに来たのか?笑えよ!女の体を手に入れても、誰も僕を女と認めてくれない、醜い男として見られるんだ…。」


 狙い通り、美人の女性の体を手に入れた男はかなり精神的に来ていた。


「体を入れ替えても、中身は変わらないんだよ?人はその中身にあった見た目があるんだ。自分を否定するあなたの中身は醜いって事だよ?」


 男にそう告げて、全員を元に戻せと言うと、


「嫌だ!女になれたんだ!今さら手放さないよ。こんなに美しい体。」

 美人女性の体を渡さないと言われたので、


「仕方ない…、醜いおじさんにして、公開処刑してあげるよ。」


 俺は自分の見た目を醜いと言って認めない愚かな奴に制裁を加える事にした。

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