第28話 陵はすぐに成仏したがる

 怒ったメルたちに埋められた陵を見ながら俺は、


「いい加減、波風立てずに真面目な陵として生きろよ。」

 そう言って、話し掛けて埋められた彼を救出すると、


「ふっ、どうやら俺は陵に向かないらしい…、新しい陵に譲るよ。」

 また、訳の分からない事を言う奴を問い返すと、


「大丈夫だ。新しい陵は良い奴だよ。」


 奴がそう告げたあと、グッタリして動かなくなった…。

(あれ?死んじゃった?)


 すると、三河さんがやって来て、意識を失った陵を見ながら、


「う~ん、死亡する予定はないので、勝手に魂を抜かれると困るんですけど…、たまにいるんですよ、こう言う人間が。この猪狩さんは女性にだらしなくて、すぐに人生を諦めちゃう癖があるんですね~。」


 彼は陵の魂を取り出すと、変な小箱に入れた。


「その箱はなんですか?」と尋ねると、


「簡単に言うと、リサイクルボックスです。これに魂を入れて再生させるとキレイな魂になって取り出せるのでやり直せるです。前に渡来さんの魂を入れた時に間違えて猪狩さんの体に入れちゃったんですよね~。」


 彼は陵と紗良の魂を取り違えた事があると話してピンと来た。


「お前が今の紗良の人格を作り出して、紗良の魂と取り違えたから、俺は陵の体にいたんじゃねぇか!結果、俺は本物の陵と勘違いしたんじゃねぇのか?」

 

 本物の紗良に今の陵っぽい人格を植え付けたこのポンコツを責めると、


「じゃあ、人生を諦めて魂を抜いて気絶してください。そしたら、私が渡来さんの魂をリサイクルしますから…。」

 このポンコツは仕事の不手際を隠すために、裏で色々していた。


「なあ、人生ってどうやって諦めてから、魂を抜くんだ?」

 紗良をまともな人格に戻したい俺はそう尋ねると、


「さあ?猪狩さんはちょくちょくやっているらしいですが、渡来さんは出来ないんですか?」

 逆に出来ないかと聞かれたので、


「出来ねえよ!人生をこんな短期間で諦めまくれるコイツがおかしいんだろ?」

 転がっている陵の体を指して話をしていると、


「あっ、魂の再生が終わりました。魂を入れますね。」

 リサイクルボックスから出てきた、魂を陵に入れると、奴は起き上がった。


「やあ、紗良さん!どうしたんだい?」

 陵は爽やかに挨拶をしながら、俺の近くに寄ってきてお尻を触ろうとしたので、突き飛ばして見ると、


「どうしたんだい?ただの挨拶をしようとしてただけじゃないか。」

 お尻を触る事は彼に取っての挨拶する事らしい…。


(何も変わっていないよ?リセットを失敗しているよ?)


「ふっ、どうやら俺は陵とやっていける自信を失ったらしい…。」

 そう言うとまた、魂が抜けてしまった。


(メンタルが弱いよ!ちゃんとした再生をしろよ。)


「う~ん、やっぱり…、猪狩さんの魂はダメダメですね。」

 三河さんは彼の魂を回収すると、悩んでしまった。


「一度抜いてあるから、その陵の体は魂が抜けやすい体なんだろ?だから、前より精神的に不安定なんだよ。三河さんが間違えて、途中で紗良の魂を入れちゃうから…。」

 あなたが間違えたせいだと言うと、


「渡来さん、もう一回、猪狩さんの中に入ってくれませんか?」

 頼まれてしまったが、


「嫌。自分が本物の紗良だって知ったから、二度と入らないよ。そんな不良品みたいな体に入れられたせいで、今の変な紗良オレになっちゃったんだよ?」


 気付いたら男性になっていた事実とそれが記憶に残る辛さを突き詰めると、


「ですよね~。はぁ、この人、戻してもすぐにリセットしたがるから、ある意味、成仏テロですよ。」

 許可なく成仏しようとする人を生じて、指すらしい。


「もう帰っていい?私はただ、巻き込まれただけなんだけど?」

 本物の紗良の俺は関係ないと話すと、


「見捨てないで下さいよ~。渡来さんと私との仲じゃあ、無いですか~。」

 仕事が出来ないポンコツのおっさんが抱き付いて来た。


 鬱陶しい、おじさんを引き離して押し問答していると陵が突然、動き始めた。魂を入れた覚えの無い陵が、


「やっば!生き返れたよ~。アタシ、生きてる~。」

 なんか…、ギャルっぽい奴の魂が入ったのを聞いた三河さんが、


「お目覚めですか、猪狩さん。では、私は忙しいので失礼します。」

 めんどくさくなった三河さんは変な魂が入った陵を見捨てて何処かに逃げて行った。


(ポンコツおじさん…、逃げちゃったよ。面倒な事は嫌だから、俺も帰るか。)

 俺はギャルの陵を放置して立ち去る事にすると、


「待ってよ~、紗良っち!」俺は陵に捕まってしまった。


「アタシたちって、トモダチだよね?逃げないでよ~。」

 陵の体でメチャクチャ甘えて来たので、


「エロい事をやりたかったら、嫁のレイアさんと楽しみなよ。私は暇じゃ無いの!」

 ギャル陵を引き離すが、ずっと追いかけて来るため、


「はぁ~、送っていくから、それ以上は巻き込まないでね?」


 奴にそう告げて、ギャル陵の手を引いて陵の家まで行き、送り届けると、ノリノリで挨拶をされたあと、家に入って行った。


(もう、知らねえよ。変な人格が入り込んだけど、記憶は陵のものだから、何とかするだろ…。)



 翌日、メルが学校で話し掛けてきた。


「紗良ちゃん、昨日から陵くんのノリが良いんだよ。週末に最近話題の体泥棒が出る町へデートに行くんだ~。」

 また、オカルトスポットへの冒険に出掛けると言った。


(呼び名がお兄ちゃんじゃあ無くなってる…。魂のリセットでおかれた環境もリセットされたのか?)


「はぁ~、どっちでもいいけど、ヤバい所なら、引き返してね?」

 少しだけ心配していたが、メルなら大丈夫だと思い、忠告だけした。


(どうせ、SNSでのデマだろ?しかし、体泥棒か…陵の中身のアレもある意味、体泥棒だな…。)


 あんまり言うと、デートの邪魔になるのも野暮だし…ね。

 


 そして、週末になり、妹の紗奈に買い物に付いてきて欲しいと頼まれて、姉妹で仲良く買い物へ出掛けて楽しんでいた。



 本当だったら、この世界のメルと紗良はそこまで仲良くなることは無かった。陵の過去が改変されて何処かのタイミングで紗良の魂をあのポンコツが陵に放り込んだせいで、違う世界の二人が交わる事になった。でも、ここに歴史を変えようとするメルがいなければ、紗奈は姉を失い、この日を笑顔で過ごせる事は無かったはずだ。


「お姉ちゃん、嬉しそうだね。そんなに私とのお出掛けが楽しいの?」

 紗奈にそう聞かれたので、


「うん、紗奈の笑顔が見れるだけで、幸せだよ。」

 姉と笑って過ごしている彼女を見るだけで、今は満足だった。


(メル…、無理してないと良いけど…。)


 妹との買い物の最中も、紗良として、危なっかしい親友のメルを心配していた。

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