第26話 音楽教師の正体とメルの怒り

 階段を進んで行き、三階へ辿り着くと、先に行ったはずのメルたちがいなくなったので、音楽室へ向かう事にした。近くまで行くとピアノを音が聞こえてきて、音楽室の中には、知らない男性がピアノを弾いていた。

 

(あの人…誰だろ?いつもの姫佳先生では無いぞ?声を掛けても良いけど、怪しいからな、しばらく様子見をしよう…。)

 

 その男性はピアノ演奏を終えると、覗いていた俺たちに気付いて、

 

「女装男子…か、大丈夫だよ。本物の女の子にしてあげるからね。」


(女装男子?紗良の中身の意識が男ってバレてるって事?)

 

 その男性が呟くと、謎の手が空間から出来て、柏崎さんの方を掴もうととしたため、


(彼女の性別を変えるつもりか、そんなこと…させないよ!)


 彼女を手から遠ざけたあと、男に蹴りを入れるために近付き、体と顔に向かって蹴りを加えると、男はそこにいなかった。すると、空間から柏崎さんの背後に回り込み、彼女を捕らえて空間に体を引きずり込もうとする瞬間、


「ウチの部員をどうするつもりだ!」

 心配で後を付いてきてくれていたと思われる部長がカッコよく登場したが、栗原さんを助けるため、彼女と一緒に空間へ飲まれてしまった。


(しまった!部長まで、飲み込まれた!)と感じたのも束の間、


「君はそのままでサヨウナラだよ…。」


 奴はそう言うと、俺の回りの床に落とし穴を作り、その穴に落ちた俺は抵抗も出来ずに、そのまま下の階に落下し始めた。


(今回の奴は今までとは次元が違う。策も無しに境界へ踏み行ったのは間違いだったか…。くそ!しくじった!)


 落とし穴の落ちた先は音楽室のすぐ下にある何も無い教室で、俺はとっさに受け身を取りながら着地したので、大事には至らなかった…。


(あの部長たち!二人は!)


 そう思って近くを見ると、女子高校生になった部長っぽい女の子と柏崎さんが女子生徒のまま、倒れていた。


(元々、女性の柏崎さんだけは性別を変えられていない…。)


 気絶している柏崎さんを抱えてみると、違和感に気付いた。


(彼女、背が低くなってないか?それにぺったんこだった胸が大きくなってる…。男が言っていた女装男子って、まさか、彼女は…。)


 柏崎さんは女子の制服を着て学校に来ていた、ちょっと変わった男子高校生だったのだ。もしかして、部員で知らなかったのって、俺だけなのかな?


 男の娘がガチの女子高校生になった事を踏まえて、俺の結論が出た。


(今回の異世界にいるあの男は、男子を女子に変える変態野郎なんだ。)



 部長と柏崎さんを保健室に連れていき、寝かせると同時に、連絡を受けたメルと栗原さんがやって来て、


和希かずきちゃんを殺ったのはどこのどいつだ!」

 元男の娘、和希?が気絶したを見て、メルは犯人に対して怒っていた。


(おい、ミステリー研究部の男子生徒の全員が女子に性転換しちまったぞ?どうすんだよ。)


「部長!誰に殺られたんですか!おのれ…、犯人め!弱い女子生徒を次々と、ウチの部員たちを…、メルは、メルは、怒ったよ!」


 部長までもが保健室送りになり、ぶちギレたメルは、


「紗良ちゃん、これは全面戦争だよ!」

 そう言ったメルは、武器を取ってくると言って部屋を出ていった。


(戦争なの?武器を持って、音楽室に乗り込むの?)


 ここであることに気が付いてしまった。被害者全員が男だって事に…、紗良みたいな元々、女性だった体は何もされずに落とし穴でさようならをして、男性ばかりを女性に変えてしまう。アイツの狙いは、学校の女子生徒を増やしたい事なんだ。だとしたら…、姫佳先生とやらは、あの場にいた知らない男性と同一人物もしくは…アレだな。



 栗原さんに気絶する二人を任せて、俺は姫佳先生がいるであろう音楽室に向かうと、


「あなたって本当にしつこいわね…。ここへは誰も来ていないんだけど?」

 正体がバレたのを察したのか、俺の顔を見た瞬間に悪態を付き始めた。


「あなたが廃部寸前の吹奏楽部を立て直した。多くの女子生徒から人気がある。まず、そこに俺は…もっと理由を考えるべきだった。この学校はこの一年の間にスポーツ強豪高から、文化系部活の強豪高へと変貌した。理由は女子生徒の比率が上がり、文化系や美術系の部活に入部する生徒が増えたから…。


 あなたの目的は男女交際する人間を増やしたいからじゃない…。自分の受け持つ、吹奏楽部を全国レベルに押し上げたかったから…。男女で仲の良いカップル増えれば、自然と部活動も二人で仲良く入れるような部活を選ぶ。運動部は絶対に男女競技が別れているから、共に過ごしたい男女はほぼ、選ばないし、中でも吹奏楽部は共同作業感がスゴいから選ばれるって所かしら?」


 俺の考えを話すと、


「不正解よ。喜んでいるのは、私だけじゃないわ…。学校運営側も生徒を集めやすいって、喜んでいるわ。事実、ダンス部も美術部もみんな男女が仲良く一緒に入られるし、女子生徒が増えた方が、それを求めて性的な事にお盛んの男の子たちが群がる。学校経営をしていて、こんなに儲かる話は無いと思うのだけど?」


 彼女は意外と素直に話し出してくれた。


「モテない男子に元男子の彼女が出来て二人は幸せになる。親友が恋人へ変わって記憶が置き換わるのに、趣味も合うし、男の自分をかなり理解してくれる彼女に女の自分や、気が合っていつも楽しい彼氏が側に居てくれるんだよ?すべてが上手く行くと思わない?元同性で交際するってメリットだらけじゃない…。」

 

 彼女はやっている事はメリットだらけだと話してくれたが、


「元々、女子生徒の女の子は元々の思考が違うから、男子に共感出来ないけと、反対に元男子生徒は女性っぽい事を出来ないでしょ?私もそうだもん…、化粧は未だに妹任せだし、オシャレにもこだわらないし、大人になれば…、元同性の淡い恋愛に変わって、努力をする本当の女性へと男の方は乗り替えるはずだよ?」


 そんな交際は高校生同士で終わる事を話して、女性として生きる経験の少ない、元男子生徒は必ず、大変な人生を送る事になるよ?と話すと、


「う~ん。彼らの高校卒業後の事は私たちに関係無いでしょ?学校経営者もきっとそう言う。こっちは給料が発生する仕事だから、教師や学校の責任は高校生の三年間のみだって…。これはビジネス、ビジネス。高校三年間は先生として本気で心配するビジネスだよ。」


 彼女や学校は高校生の期間のみでしか、責任を持たないと話した。


(だよね…、先生は、こんなくだらない事を起こす大人だもん。事情も聞けたし、メルが学校を破壊する前に終わらせるか…。)

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