第22話 本人認証と謎の部活

 今回で分かった事、それは俺も、メルも、本来の自分とは、ほど遠い人格だったって事。本当の陵はどうしようも無い奴、メルは反対に変態の陵が好きなあまり…変な性格になってしまっただけの女子高校生だった。


「いや~、今回もありがとうございました。」

 

 神具回収専門係になった、ポンコツの三河さんが聖剣を回収しに来た。

 

「三河さんは相変わらずですね。自分では何もしない事について、上司に怒られないんですか?」


 彼にそう尋ねると、

 

「私がしたっぱなのは、猪狩さんたちよりも遥かに弱いからです!」

 自慢気にハッハッハと笑いながら、仕事が出来ない事を宣言していた。

 

(この人、そのうち…この仕事もクビになるな。)

 

 物事が万事解決した瞬間に現場へ駆け付けるしたっぱさんを見て呆れたが、陵の偽者だと知った俺は、


「俺はそろそろ、紗良ちゃんに体を返したいんだけど…、偽者の陵はもう、眠る事にするよ。」

 紗良の体に宿ったこの人格を消して欲しいとお願いすると、


「メルは残るよ、ここでお別れだね…。ありがとう、真面目な陵くん。」

 メルと握手をしたあと、


「まあ、女性の体に男性の人格は大変でしょうから、色々とお察し致します。もう会うことは無いでしょうが、楽しかったですよ、陵さま。」

 レイアさんとも、言葉を交わしてお別れの挨拶をした。



「本人が望むのなら仕方ないです。あとは私がやりましょう。」


 そう言ってくれた彼が、紗良の体に聖剣を突き刺すと…、手応えがまるで無かった。


「あれ?斬れない…。」彼は首を傾げながら、聖剣で切り付けて来るが、紗良の中にいるはずの俺には当たらなかった。


 しばらく、彼は悩んだあと、


「あっ、これは、渡来 紗良さんご本人だったのですね!失礼しました!渡来さんはきっと、猪狩さんだと思い込んで生きていたのでしょう…。」


 そう言って、考えるのを止めたポンコツ野郎はノートに何かを書いたあと、逃げるように帰ろうとしたので、何をしたのかと呼び止めると、


「いえ、こちらの書類に手違いがあったらしいので、あなたの魂の本人登録をキチンとしておきましたよ。ダメですよ渡来さん、あなたは本物なんですから、他人の名前を語っちゃあ…。」


 彼は俺の隙を突いて、瞬間移動して逃げた。


(くそ!紗良本人がその体にいないって言う、非常事態になるのが嫌で俺を本人と登録して逃げやがった。)


 俺はメルに話し掛けて、体の中に紗良ちゃんが居なくなったから、どうしようかと相談すると、


「紗良ちゃん、私たちもう、高校生だよ?そう言う、多重人格者のフリをして自分が陵くんだったって言うのは、止めなよ?男の子に憧れているのは分かるけどさ~。」


 メルの記憶がすでに置き換わってしまっていた。



 それから、レイアさんは近くに車を用意していて、みんなを家まで送ると言い、俺は紗良の家で降ろされてしまった。仕方ないので家に帰ると、妹の紗奈がいつもどおりに留守番していた。


「私はインドア派だし、アウトドア派のお姉ちゃんとは相性が良いよね。」

 ご飯を用意したから食べようと言われて、姉妹で仲良く夕食を食べてのんびりと過ごしていた。


(紗良ちゃんは体の中で眠っているのかな?)


「お姉ちゃんって本当に昔っから、男らしいよね…。」

 妹の記憶も男勝りの性格の紗良という事に置き換わっていた。



 次の日に学校に行くと、メルがいたので、


「メル、おはよう。あれから陵はどうなの?」

 人格を改善したはずの陵の事を聞くと、


「紗良ちゃん!お兄ちゃんは私のだよ!誰にも渡さないんだから!」

 そう言って、不機嫌な態度を取って自分の席に座ってしまった。


(お兄ちゃん?メルはどうしたんだろ?)


 メルの変化に驚いて、彼女を問いただすと、今はレイアさんが陵の妻として暮らしているそうだ。そして、彼女ポジションだった家無き子のメルの立場は血の繋がらない妹へと変わり、名字も猪狩へと変わってしまった。


(陵とメルの記憶が置き換わったみたいだ、これはレイアさんの裏にいる、神様の仕業だな…。)



 また、家族が増えるのかな?って気楽に考えながら、学校生活を普通に過ごしたあと、放課後になったため普通に帰ろうとすると…、


「紗良ちゃん、部活の時間だよ?何をしれっと、帰ろうとするの?」

 メルに部活だと言われて止められた。


(部活の時間?高校三年、最後の夏って言いたいのか?確かに紗良やメルが運動系の部活に入ったら最強だけど…、男子よりもす速くて、力強いって、これはチートじゃないの?)


「メル、何の部活をしてたっけ?私たち…。」

 もちろん、そんな記憶は一切無いので、聞き返すと…、


「幽霊部員だから…部活の事も忘れたの?確かにウケるけど、それって、真剣に部活をしている副部長のメルに失礼だよ?」


 副部長とやらに就任しているらしいメルは怒りながら、強引に俺を連れて部活が行われている部室とやらに入ると、


「やあ、紗良くん!今日は真面目に顔を見せてくれたんだね。」

 如何にも怪しいオタクっぽい眼鏡男子が中央に座っていて、


「ご機嫌はいかがですか?紗良先輩。僕は先輩とお話するのが楽しくて、この部活に所属しているのですから、幽霊部員はお辞めになられて、部活時には必ず、僕の隣へ来てくださいませんか?」


 陰湿な部室には似つかわない、高身長の紗良より、さらに背の高くて品のある僕っ子の女子を見て、


(女子なのに…背がデカイな、175cmはあるぞ、この子…。)


 160cm後半の紗良が見上げるくらい背の高い僕っ子に少し驚きつつも、最近の女子高校生は背の高い子が多いんだと思い、特に気にはしなかった。


「ふん、好きな時、部活に来れるとは、いいご身分だな!」

 メルと同じ匂いがする厨二病全開の男子に愚痴られた。


「圭太くん、言葉使いには気を付けなさい…、紗良先輩は仮にも先輩ですよ。例え、スタイルが良くて可愛いだけが取り柄でも。」


 生徒会の書記をしていそうな、かなり真面目な雰囲気のある後輩っぽい女子生徒に部活をサボる事への嫌味を容姿に置き換えて、さりげなくディスられた。


「男らしい先輩は自分の憧れです。いつかは先輩みたいに幽霊を素手でブッ飛ばしたいです。」

 無垢純粋そうなベビーフェイスの男子に俺は何故か、憧れられていた。


(それぞれのキャラがバラバラだな、これは部活として機能するのか?)


 何も知らない状態の俺を前に、部活のミーティングが始まった。

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