第21話 別の世界が出来る原因

(雷で残像を作り出すのか…。聖剣とやらを舐めていた。)


 雷を操り、聖剣を使いこなすおっさん相手に隙を突いて攻撃を加えたつもりだったのだが、それは実体ではなく、聖剣で作り出した偽者だった。偽者に攻撃をした俺とメルは強力な雷撃を受けて、あの最強を誇っていたメルが倒れてやられてしまったのだ…。


「バカな女たちだ。私を捕らえられると思ったのか?」

 おっさんはボスらしく、ただの人間では無かった。


(痛いけど、メルよりも体が大きな分、気を失わずに済んだみたいだ。)

 


「フハハハ、立っているのもやっとのようだな。聖剣の雷撃を受けて死ぬといい!」

 おっさんは聖剣を振りかざそうとしたが、俺は気付いてしまった。


(あれ?今、おっさんが持ってるのって、陵が持ってた金属の剣だよね?)


 当然、ただの剣にはそんな効果は無く、おっさんの攻撃は空振りに終わった。

 

「フフ、ドジなお方ですね、聖剣はここですよ?」


 俺たちの攻撃を囮にレイアさんは奴から聖剣を奪い取っていた。


「貴様、ただのヒーラーではないのか?何者だ!」

 油断したおっさんはレイアさんのすり替えた技を理解できず、夢中になっていたので、素早く背後に回り込んで、

 

「回収完了です。紗良ちゃん、殺ってしまっちゃって良いですよ?」

 彼女が聖剣の奪還に成功していたため、


「おっさん、全身の骨を砕いてやるよ。」


 メルの持っていた杖で右肩、左腕の骨を粉々にした。悲鳴をあげるおっさんの顔面を踏みつけてボコボコにした。

 

「紗良ちゃん、やり過ぎです。まだ、息があるじゃ無いですか、こんなのは首を跳ねて殺せばすむ話。生かして拷問と言う行為は、勇者パーティのする事ではありません。」


 そう言って、落ちていた剣でおっさんの首を跳ねて倒してしまった。


(怖いよ。ヒーラーは剣で敵の首は跳ねないよ。)

 

 おっさんを倒して聖剣を取り返すと、レイアさんが陵やメルの存在について話し始めた。


「歪な世界が出来る理由は異世界にあるはずの神の道具を使った者が描いた世界を作るからなの。陵の女子高校生への執着が紗良と言う、現実の世界にいた人間を、空想の人物にした形が今のあなた。


 私の場合もそう、キレイな女性への強い執着が生み出したレイアと言う人間の形をした生き物。そこの陵に執着し過ぎる健気なメルと言う女の子も誰かの願いで生まれた存在なの。」

 雷撃を受けて気絶しているメルを指して彼女は話してくれた。


「メルって男の子だったのかな?陵が好きでも、男の子同士だから…、女子高校生好きの陵のために変身した姿。」

 メルの正体について考えていたら、


「どうでしょうか…。常識知らずの所や精神年齢が低いから中学生女子くらい?無邪気にHを求めたり、胸を揉ませたりしている所を見ると…もっと若い女性かもね?」


 レイアさんはただ気絶している陵よりも先に雷撃を受けて気絶するメルを抱えて回復魔法をかけ出した。


(レイアさんって、普通に魔法が使えるのは、そう言う設定で生み出されたキャラだから?)


「この今の俺も人間技じゃない事ができるから、作り出された人間なのかな?別の世界人間だったし、陵が作り出した人間だから、コイツが死ねば、この体にされた俺は消えて無くなるのか?」


 動かない陵を見て、自分自身がJKになってしまうくらい憧れてしまうと言う、変態野郎に心底、呆れていた。


 その後、レイアさんは陵を回復させたのだが、


「フハハハハ、残念だったな、伝説の勇者の体を手に入れたぞ。余は男の体がある限り、何度でも生き返るのだ。どうする?体を人質に取られてしまったぞ?」

 どうやら、縛られた陵の体はさっきのおっさんに乗っ取られたらしい。


「レイアさん、どうします?俺はコイツを殺しますけど…。」

 手に入れた聖剣を乗っ取られた陵に向けると、


「バカめ!伝説の勇者の体だぞ?お前の仲間でリーダーなんだぞ?」

 陵の姿をした奴は容赦なく殺そうとする俺に慌て出した。


「う~ん、除霊の魔法があるんだけど…、メルちゃんの教育のせいでダメな陵になってるし、生かしていても仕様がないから、一度リセットしましょうか?」

 レイアさんは殺しても構わないと言ったので、


「じゃあ、遠慮なく。陵、バイバイ!」

 俺は陵を聖剣で斬って一刀両断しておっさんの魂を消滅させた。


(やっぱり、聖剣で攻撃を与えたり、斬れるのは偽者の生き物だけ、本物の陵は斬れない。)



 目の前に倒れている陵が本物。紗良の体にいる俺は偽者。 


「陵が紗良の中に理想のJKを描いたように、紗良もまた、理想の相手を陵の姿に描いた、それが俺だったんだよ…。」


 俺は本物の陵じゃなかった。高校でメルの交際相手の自慢話を聞いた紗良が理想の彼氏を思い描いて作り出した存在だった。だから、俺は本物の陵とは違って、ゲス発言や行動をしないし、電車で起こった、メルへの痴漢行為をした出会いの瞬間も知らない。問題はいつから本物と同化していたかのか?それは分からないけど、ゲスいコイツが本物の陵なんだ…。


(メルは気付いていたのかな?俺が本物と同化していた事に…。)


 メルや紗良はこの世に生きているけど、自分で作り出した理想の自分に体を乗っ取られている。俺は紗良を助ける過程で本物の同化した。メルはもっと控えめな性格だった自分を変えたくて、明るくて積極的な自分自身に体を預けているのか?


(まだ、情報が足りない。いつ、俺が誕生したのかが、分かっていない。)


 自分自身の正体が分かり、考え込んでいるとメルが目を覚ました。


「紗良ちゃん、メルもその聖剣で斬ってくれていいよ。本物のメルがどんな子かは思い出せないけど、今のメルじゃあ、陵くんを変えられない事が分かったし、今のメルは陵くんが好き。でも、この陵くんはすぐに浮気をする。だから…、程よいゲスさを持つ、彼に変えて欲しいの…、紗良ちゃん。」


 目を覚ました彼女は陵を諦めようとしたので、


「程よい陵ね~。メルが理想の陵を貼り付けしたらどうなの?今だったら、この陵の肉体を乗っ取って、操ればどうなのかな?」


 そう言う提案したら、レイアさんが、


「そうでしたら、私に一度お任せくださいませんか?メルちゃんの理想の陵とやらを私の感じたままに描いてみますから。」


 レイアさんに提案されたので、俺とメルは頷いて彼女に委ねる事にすると、彼女の魔法で陵の体に何かを注入し始めた。


(人格の注入?これで陵の変態性の部分が直れば良いんだけど…。)

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