第18話 一番マッドな奴は誰?

(聞いてたのとまるで違うんだけど…。)


 高身長女子ばかりが行方不明になる現象を追いかけて、メルと俺は陵を連れて調査に来ていたが、メルははぐれるし、陵に胸を揉まれるし、初老の変なお爺さんには出くわすし、取りあえず付いてこいと言われたので付いていくと、変な建物に案内された。


「ようこそ、天才科学者のMr.ジェイの館へ、あんたの悩みを叶えたるわ、背を小さくして可愛くなりたいんやろ?あんさんの場合は15㎝ぐらい縮めばエエかな?」

 変なお爺さんが意味の分からない事を言ってきた。


(なんだ、この人。)


「あなたはこんな所で何をしているんですか?」

 人さらいのうわさになってるのに、なんでこんな所で?と思ったので聞くと、


「言うたやろ、互いの事を聞くのは無しや。せやからどうすんねん、可愛くなりたくないんか?」

 お爺さんに聞かれたので、俺はピンと来た。また、神具の流出だなって…。



「天才科学者さん。私を男にする事は出来ますか?」

 陵だった頃の姿に戻せるのか、試しに聞いてみると、


「無理や。体の構造を変えるわけやない。再度の成長をさせるチャンスを与えるだけや。」

 なるほど、このジジイは砂時計の時戻りと一緒の事をしているだけなんだ。


「じゃあ、コイツを小さくする事は出来るんですね?中学生くらいの体にしてみて下さい。」

 陵を差し出すと、ジジイは興奮して、


「ほう!実験の被験者を差し出してくれるのか…、面白い!天才科学者の実力を見せてやろう!」


 そして、陵に俺はメルが喜ぶぞと言い、カプセルに入れると、丁寧に操作方法を説明しながら、機械を操作してスイッチを入れたら、中にいた陵が少し、小さくなって中から出てきた。


「うわ、天才だ!スゴいな!」俺は奴を褒めて油断させた。


(よし、このジジイはもう、用済みだな。)


「フハハハ、私は天才だ!どうだ~。」


 自慢してきた瞬間に俺は持っていた鉄扇でジジイを叩いて気絶させた。


「天才は褒めると絶対、脇が甘くなるよね。」


 俺はジジイをカプセルに放り込んで、時を進めてからスイッチを入れると…、ジジイが灰になって、居なくなった。魂のみになったジジイを魂を掴める手袋で捕らえて、スマホでメルに位置情報を送るとすぐにやって来たので、


「この機械で今の俺が陵になったら、更正させなくて良くないか?」

 この機械を使い、魂と体をカプセルに放り込んだら体を変更できないかを聞くと、


「僕はメルになりたい!胸をいっぱい揉み放題だもん!」

 変な性癖を持った陵は捻れた考えをしていた。


「え~、メルは紗良ちゃんになりたくないよ~。メルが陵くんになってメルを愛せば良いんだよ。」

 メルが陵の体になると言い出したため、体を戻れる話が頓挫しそうになった。

 

「ワシの肉体が無くなってしまったでは無いか!許さんぞ!貴様。」

 ジジイが意識を取り戻したため、ウザいと思って、


「ジジイにふさわしい体を用意してやるよ。お前は実験台だ。」


 ジジイが飼っていたモルモットを一匹、取り出してカプセルに入れて、ジジイの魂を痛め付けて、動けなくしてからカプセルに入れたあと、機械のスイッチを入れた。


 しばらくすると、ジジイの魂がモルモットと結合して、モルモットだけがカプセルに残っていた。


「可哀想に、マッドサイエンティストの紗良先生の犠牲になったね。」

 モルモットを愛でながらメルが元のケース部屋に戻していた。


「人間の記憶は無さそうだな。魂は脳に引っ張られるのか、もし、陵の体に戻っても、脳が優先されて、変態になるだけなら、その体は要らないな。」

 ジジイの研究に不備がある事が判明して項垂れていると、


「物は試してみてじゃん。陵くんとメルの体を交換してみてよ、マッドサイエンティストの紗良先生。」

 自ら実験台になると言い出したので、俺は試しにしてみる事にしようとしたら、


「神具の無許可で使用する行為は地獄行きですよ。」

 俺が位置情報をメルに知らせてしまったため、ここがバレて現場にやって来た、三河さんに止められてしまった。


「三河さん、良い所に、許可を下さい。」俺が彼に聞くと、


「私にそんな許可を出す権利はありません。それに、その機械に使われている神具はレプリカで不完全だから、機械から外すと…。」


 三河さんが機械から神具のレプリカを外すと、モルモットの中からジジイの魂が出てきて、中学生サイズの陵がいつもの陵に戻った。


「本当だ、じゃあ、今ごろ、行方不明の女性たちも元に戻ってる?」

 

 俺の予測通り、三河さんが持っている個人情報手帳を見て、すべての人が元通りになった事を話してくれた。そして俺たちの行いは罪に問わないと言って、神具のレプリカとジジイの魂を連れて帰って行った。


「メル、寂しかったよ~。紗良先生の胸をモミモミするのはダメだって、投げ飛ばされた。帰ってメルをモミモミしたいよ。」

 メルによって、変な性癖に改造された陵が甘えると、


「紗良ちゃん!陵くんを誘惑しないでよ!陵くんが触って良い胸はメルのだけなの!」

 陵を投げ飛ばした事より、胸を揉まれた事に怒ってきた。


(もう、帰れよ。それにいらねぇよ、性癖持ちの陵の体なんて…。)


 マッド過ぎる二人とはここで解散する事にした。陵がどんどん変な方向に改造されている…。確実に悪い方向へ進んでいく事態に、体で眠っているはずの本物の紗良が早く目を覚ましてくれないかなと心から願っていた。


(俺が穢れていく…。)


 でも、メルに痴漢行為をしていた、かつてのオレはどうやってまともになったんだ?全然、昔を思い出せない。まるで記憶が置き換わったかのように…だ。


 もしかして、俺の存在が違う未来を作り出しているのか?メルだけが関わる人生なら、かつての俺のようになるはずだった…。でも、それでは良い陵とゲス野郎の陵の人格が別れてしまい、バッドエンドになる。


 紗良の命と陵の命がリンクしているのも、不思議な話だ。本当の紗良は陵とは初対面だったし、別世界の紗良の命を救った事で、陵、メル、紗良の事態がもっと悪化し始めたのは容易に想像つく。


 世界を飛び越えて、同じ人物に触れると、同化する事はこの体が証明した。紗良オレ以外の人間にも、同化した奴がいるのかもしれない。ソイツは俺よりもこの世界の仕組みに詳しいかもしれないし、探してみよう。

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