第15話 始まりの日は刺激的な出逢いから

 俺は紗良としてあの日の交通事故を代わりに受けて紗良の命を救ったが、何故か本物の紗良になってしまった。メルの言うとおり、俺は紗良になるべき人間だったからなのかは分からないが、今はそんな事を言ってる場合じゃない。


「メル、紗良は無事だが、事故の反動で本物の紗良の体とくっついた。どうすれば良い?」

 事情を話して、次の指示を待つと、すぐにメルがやって来て、本当の紗良が 消えた事を言ったのだが、


「何を言ってるの?紗良ちゃんは元々、一人だよ。あとは陵くんが死ぬのを防がないと…ね。」

 メルは俺が本物の紗良だと話し始め、陵が死ぬのを防がないといけないと話した。

 

(また、メルの記憶が置き換わってる…。同じ人間、同異体の二人の存在が重なり、一人になったのか?本当の紗良ちゃんが体の中で眠っているだけなら良いけど…。)

 

 メルは紗良が元々一人だった事を話してくれたが、次に陵の命も救わないといけない事を話してくれた。


「なら、急ごう。メルのいない世界線の陵はどこにいるんだ?」


 俺はその居場所を尋ねると、


「陵くんも数時間後、事故に遭うんだ。トラックに跳ねられて…。」

 紗良はトラックで、陵もトラックに跳ねられて死ぬらしい。


「なんで跳ねられるんだ?」俺が尋ねると、


「メルのいない場合の陵くんは無類のJK好きで、すぐに制服を着ているJKのお尻や胸を触りたくて堪らなくなるんだ。この日はついにJKを触りたくなる思いが爆発して、電車で痴漢をしちゃって捕まっちゃうだよ。それで逃げてトラックに跳ねられて…。」


 俺は聞きたくない事実を知ってしまった。


(痴漢をして逃げて、トラックに跳ねられて死亡するの?最悪な死に方だよね?ただの変態だよね?助ける価値ゼロだよね?)


「でも、陵くんを助けないと紗良ちゃんの命に関わるかもしれない…。」

 メルは変態の陵に関わってくれる、とても良い子だった。


「昔のメルは年月を掛けて、陵を更正させたんだね。それをあのゲス野郎が台無しにした。」


 そして、今の紗良の体にいる俺は、メルが年月を掛けて更正させたあとの陵が俺だと気付いた。まさか、年上の嫁や妹たちを作ったのも…。


「そうだよ、メルに飽きた陵くんが、年上や未成年者に手を出さないように、陵くんを更正させる様々な女性を用意して、犯罪行為をしないように、頑張ったのに、悪い陵くんが全部、台無しにしちゃった。」


 陵の性犯罪を防ぐため、真面目な人間に更正させるように取り組んでいたメルの努力をもう一人の俺が台無しにした。


「なんか、ゴメン。どうしようもない俺で、ゴメン。」

 ゲス野郎の陵を代表して、メルに謝罪すると、


「うん、大丈夫。痴漢を防いだら、また、メルが陵くんを更正させるから…。メルがいないと陵くんはダメだから、嬉しいんだ…。」


 どうやら、ゲス野郎を更正させていく内に彼女の中で深い愛情が芽生えたみたいだ。


「じゃあ、俺も責任を持ってゲス野郎の更正を手伝うよ。」

 紗良の体で自分の更正を手伝うと言うと、


「ありがとう、紗良ちゃん。だけど、陵くんとHするのは私なんだから、陵くんとメルとの真剣交際の邪魔しないでね。」

 陵とは関係を持たないで…、と牽制された。


(うん、大丈夫だよ。そんなゲス野郎を好きになるのは、メルだけだよ…。)


「で、どこで奴は痴漢をするんだ?」陵の居場所を聞くと、


「あっ、陵くんとメルの運命の出逢いの場所?そうなの、電車で陵くんが私のお尻を触った事で私たちの恋物語は始まったんだよ。」

 メルは顔をニヤけながら、痴漢事件が発生する話を聞かせてくれた。


(痴漢がきっかけの恋愛なんて、聞いたことねぇよ。むしろ、ゲスい陵の話なんて聞きたくねぇよ。)

 

 そのあと、痴漢で捕まる予定の場所と時間を聞き、その車両に二人で乗り込んだ。


「メルが陵くんに触られるんだから、紗良ちゃんは私と陵くんの愛の時間を他の人たちから、邪魔されないようにしてね。」


 電車でも、陵に触られるのは自分だと言って、それを他の人がその行為を注意しないように上手く誤魔化せと言ってきた。


(メルが触られるのを喜んでいても、二人とも、公然わいせつ罪だからな…。捕まるのを防ぐ、一体…どうすれば?)


 俺とメルは先回りしていたので、家からの最寄り駅に着くと、陵が乗り込んできた。奴は特に怪しい動きをするわけでもなく、メルの側に移動すると俺の目の前で堂々と奴は触り出したため、他に見つかるとあれなので、前に立ち塞がり、しばらくは様子を見ていたが、やはり…気持ち悪くなってしまい、


「あの~、見てましたよ。」と耳元で囁くと、奴はオドオドし始めて、


「大丈夫ですよ。彼女なら、触っても…。」

 メルがかなり喜んでいたので、続けても良いと言うと、


「本当ですか。では、遠慮なく…。」


 ゲス野郎は遠慮しなかったため、怒りのあまり、膝で股間を蹴りあげて肘鉄を食らわせてつい、攻撃をしてしまった。


「紗良ちゃん!電車で暴れちゃダメだよ!」

 痴漢野郎を撃退した俺が何故か、怒られてしまった。


 痴漢野郎は戦意喪失したため、次の駅で引きずり下ろすと、


「紗良ちゃん!これから陵くんは毎日、同じ時間に電車で私のお尻を触って二人の愛を育むの!邪魔しないでって言ったよね!」

 痴漢をされた側のメルにものすごく怒られてしまった。


「いや、だって、コイツ…、俺なのに、ヤバい奴じゃん。」

 

 股間へのダメージが相当痛かったのか、駅のホームで悶絶して転がっていた。


「メルは陵くんの子供を作るんだから、股間への攻撃は止めてよ!陵くん大丈夫?メルのお尻を触る?それとも、家に帰ってHする?」

 メルは痛がる彼に寄り添って、性的な事を求めていた。


(陵が変態なのは、半分はお前のせいだろ。)


陵が会話できるまで回復した。すると、奴は、

「あなたたち、何者なんですか!僕に何の恨みがあってこんな事をするんですか!」


 自分の犯罪行為を棚に上げて聞いてきたので、


「お前が痴漢行為をするからだろが!」

 陵の体で犯罪行為をした事を責めると、


「紗良ちゃん!陵くんは電車でメルと愛し合っていただけだよ!紗良ちゃんが大袈裟にし過ぎるから、陵くんが困ってるんでしょ!」


 今、分かった。痴漢をしたコイツよりもメルの方がヤバい事に…。

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