第10話 ミラーワールドはすべてが逆

 鏡に引きずり込まれた俺とメル、しかし、その中には勇と有紗もいて、メル以外の三人の性別が反転しており、俺と勇が女、有紗が男に変身していた。


(俺を女性に反転させた姿は紗良さんなんだ…。)

 

 鏡に映る俺の背の高さに反映させたのか、俺が知っている紗良さんよりも背が高いし、少し胸などが大きくなった…。女子高校生の紗良よりも、色々とワンサイズずつ大きくなったみたいだ。


 その後、メルと二人でそうなった理由を話していたのだが、


(なるほど、メルは鏡にほぼ、映らずに取り込まれたから、性別が反転していないのか…。)

 

「きっと、紗良になって紗奈ちゃんを喜ばせたいから、その姿になったんじゃ無いのかな?」

 メルの理論では、鏡は理想の姿を映し出すらしい。


(俺は紗良さんに生き返って欲しいから、きっと、この姿になったんだな。)


「お母さんとメルちゃん、帰ろうよ~。」

 性格が反転して少しワガママな勇は飽きたから帰りたいとふてくされた。


「しかし、可愛いよねメルさん。俺、スゴくタイプだよ!」

 好みも反転したのか、陵よりもメルの方が有紗は好きみたいだ。


 女性の体になったため、いつものリュックがかなり重くなってしまい、こんなもの背負えないよと中身を減らそうと見ていると、一つの鏡を見つけた。


「メル、これ何?」と鏡の事を尋ねると、


「陵くん、声が可愛いよ~。」

 そう言って、彼女に抱き締められたが、それを払いのけて、


「だから、質問に答えてよ。この鏡は何なの?」

 俺はメルを問いただすと、


 彼女は鏡の中に閉じ込められた時に出るための物だと話してくれた。それを聞いて、周りを見ると、このミラーワールドには鏡が一つも無い事に気付いてしまった。


 行方不明者が続出する理由は、異性の変身した事に気付かないのと、鏡が無くて戻れない事にあるんだ…。


(俺以外は少し記憶も置き換わっていて、みんな…鏡の中に閉じ込められているって事に気付いていない。)


「陵くん、女の子の体で大丈夫?戦えるの?」

 メルに聞かれたので、


「俺は怪我で弱りきった紗良さんの体で一年以上も過ごしたんだぞ。それに比べたら、背が高いし、脚が長くてリーチがある体だし、大丈夫だ。」

 そう告げて、細くて綺麗な手足でファイティングポーズを取った。


「なら、今回は女の子らしいこれだね。」

 メルはリュックから、華やかな色の鉄扇を渡してきた。


(前回は水鉄砲、今回は鉄扇って…。)


「何らかの呪具みたい道具で閉じ込めている奴の仕業だよ。だから、正面突破はしないでね?」

 彼女はいつもの手袋を身に付けると、走り出して行ってしまった。


(毎回、正面突破をしているのはお前だよ。)

 

「姉貴、俺たちは腹へったし、帰るわ。」


「お母さん、ご飯作って待ってるから、早く帰ってきてね~。」

 二人はそう言って、鏡の無い逆転世界の館を出ていった。


(まあ、悪い奴は大抵…。)俺は上を見上げた。


 階段を登って行き、一番大きくて一番高い部屋を目指すと案の定、偉そうにして鏡を持っている男がいた。


「悪役はみんな、バカばっかりだな…。」俺がソイツに嫌みを言うと、


「正面から来るなんて、バカなのはお前だろ?元男の可愛い子ちゃん。」

 そう言って鏡を俺に向けて来たため、近くのソファーの後ろに隠れた。


(あの鏡に映ると魂の抜かれるとか、そんな所だろう。)


「可愛い人、出てきなよ。私の人形コレクションに加えてあげるから~。」

 男はお人形遊びが趣味らしい。


「あんた、元女性だろ?なんでこんな事をしてんだよ。性別転換に気付いたなら、さっさと家に帰れよ。」

 鏡の世界で性別転換したのなら、元女性になる。


「ふふふ、私、真面目な女の子だったの。だけど…ね、今は君みたいな可愛いお人形が欲しい男になったの…、だからね、この世界に迷い込んだ元男性たちをお人形としてコレクションにしているんだ~。」


 真っ当な人間ほど、ミラーワールドでは狂った人間になるのか…。それに若い男性が行方不明になる理由も分かったよ。


「さっきの女の子も可愛かったな~、でも、もう少し大人になってからコレクションに加えるよ。」

 美少女の勇は年齢が若すぎるから、逃がしたらしい。


(なら…、メルはどうなんだ?捕まったのか?)


 これからどう攻めるか、悩んでいると壁がメリメリと音を立て始めて、先に進んだはずのメルが壁をぶち破って入ってきた。


(迷子かよ!それとも一つ一つの部屋を探していたのか?)


 男はまさかの扉以外から現れたメルの出現に驚いて、慌てて彼女のいる方向に鏡を向け始めたが、コンクリート破片が鏡に当たり、鏡が粉々になった。それを確認した俺は男の後ろに回り込み、持っていた鉄扇で男の首元を目掛けて振り切ると首に当たった瞬間にスゴい電流が男の体に流れて一撃で倒れた。


「あっ、陵くんに手柄を取られたよ~。」

 メルの素手で壁を破壊できるその手袋の性能にも驚いたが、本当に正面突破をしなかった事にも驚いていた。


「メル!鉄扇から電流が出たぞ!こんな性能聞いていないよ!」


 ある一定以上の衝撃で電流が流れる鉄扇を説明なく持たせた彼女にキレると、


「私もビックリしたよ!ビリビリって護身グッズがあるなんて…。」

 彼女も知らなくて、俺の一振りに興奮していた。


 男をリュックの中にあった、縄で縛ると、粉々になった鏡を拾い上げて、帰る方法を考えていると、また、違う女性の神様が俺たちの所にやって来た。


その巨乳の女神は粉々の鏡を見たあと、俺たちを睨み付けて、

「我の神具を壊したのはどちらの女子おなごじゃ?」と聞いた。


 俺は壊したメルを見ると、笑顔で手を挙げていた…。


(メチャクチャ睨んでくるよ、メルさん…。怒られるよ?)

 

「あ、それはメルが壊したよ~。ごめんなさい。」

 笑顔で軽めの謝罪をすると、

  

「素直じゃな、なら…良い。鏡の力を乱用し使ったのはこの男かえ?」

 

 彼女が縛って捕まえた男の事を指差したので、これまでの経緯と鏡の影響でこちらに来た段階でメル以外の人間の性別が反転している事を話すと、

 

「それはすまぬ事をした…。どおりで現世を探しても見つからん訳だ。お主達は元の世界に戻してやる。詫びに一つ願いを叶えてやる。申せ。」


 意外と太っ腹の女神様は俺とメルに願いを聞いて来たので、


「メルはこの陵くんと一緒に過ごしたい。だって、可愛いもん。」

 メルがとんでもない事を言ったので、


「止めろ!俺は元の男に戻りたい!女はもう嫌だ。」

 メルの願いは聞かないでと言うと、


「何じゃ、ワガママな奴らじゃの!一つと言うたでは無いか!ん?よく考えれば、一つじゃな…。そちらの女子おなごは元に戻るだけじゃからな。よし、主の願いを叶えよう。」


 女神が念じると、俺もメルも気を失ってしまった。

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