第5話 まるでVRだけど…本物?

 映画を見る前にメルからゾンビとは?を聞かされていた。あんまり流す程度に聞いていたので、ゾンビは噛まないとゾンビは操られて動いている事だけは知ることが出来た。


「だからね…ゾンビに襲われても、元凶を倒せば、動きが止まるんだよ?分かった?」

 彼女は俺に言い聞かせてきたので、


「ああ、分かったよ。でも、映画からゾンビが飛び出すなんてあり得ないだろ?VRじゃあるまいし、なんでそんなウワサが出回ってるんだよ。」


 ある条件下で映像が本物に切り替わり、その場にいた人間はゾンビ映画の中に連れていかれる。

 

(物騒な話だよ。噛まないのになんで全員が死ぬんだよ。)


「不思議体験をしたくせに信じないとは、さては陵くん、怖いんだ~。」

 メルが茶化すけど、そもそも信じていない俺は気にもしていなかった。


 映画館に到着して、メルが事前に用意してくれていたチケットで映画館に入り、上映されているホールに入ると、ゾンビ映画が始まる所だったため、すぐに席に付こうとしたが、違和感を感じてしまった。


「おい、上映時間が違うぞ!しかも、全然、お客さんいねぇじゃん。」

 そう言って後ろを振り返ると、ゾンビが襲ってきた。


「邪魔!」


 メルは俺の背負っている不思議リュックからバールを取り出して全力で襲い掛かってきたゾンビを殴り付けてブッ飛ばした。


 殴られたゾンビは首が折れ曲がって倒れてしまった…。暗いホールには多くのゾンビがウヨウヨ歩いていて、俺たちは囲まれていた。


「すっかり人気者だね。はい、賢者の杖。」

 メルはリュックから長い杖を取り出すと俺に渡してきたあと、


「じゃあ、元凶を倒しに冒険しようね。」

 メルは変な手袋を身に付けるとゾンビ達をどんどん殴り倒して、俺を放置して先に前の方へ進んで行った。


(この間もそうだったけど、不思議な手袋好きだね…。なんで、俺は杖?魔法使いなの?振ったら炎とか出るのかな?)


 襲われたく無いので、杖を振りかざすと分かってはいたが何も出ずに、ゾンビに囲まれてしまった。


(いや、無理だし!杖って役立たずの武器じゃん。)


 俺は落ちていたバールを目の前のゾンビに突き刺していると、ゾンビに囲まれていた先に小さな少女を見つけたため、杖を振り回して少女の近くまで行き、大丈夫と声を掛けると、


「おお、我が杖を持ってきてくれたのか!」

 少女は杖を取って振りかざすとホールのゾンビ達が全部、消え去ってしまった。


(魔法?)その光景に唖然としていると、


「我が夫よ、必ず助けてくれると信じておったぞ!」

 俺を夫だと言って、少女は口にキスしてきた。


そして、落ち着いたため、彼女に夫では無いことを告げると、

「嘘を付くな!我が杖を持って来る男が、将来の伴侶になる者だと神からのお告げがあったぞ。」


 彼女は10歳ぐらいの少女なのに大人っぽい態度で言ってきた。


 この少女は誰なんだと思い、何か知っていそうなメルを呼ぼうとしたが、近くには俺と少女以外は誰もいなかった。


「メルがいないぞ。どこに行ったんだ?」

 彼女を探して奥に進んだら、ここが映画館では無くなっている事が分かった。変な形の木々に囲まれた暗い森に迷い混んでいた…。


(なんで俺だけ、こんな目に遭うんだよ。)


 そもそも、どうやって普通のホラー映画が本物になってしまったんだ?倒れていた他の人は殺されたのか?と考えていたが、騒動がウワサ程度に留まっている理由は巻き込まれた人が全員死んだから…じゃないの?


「ああ、我が夫よ、凛々しい顔立ち、素晴らしい…。名はなんと申すのだ?」

 少女は俺を美化し出して、迫ってきたため、名前を言うと、


「リョウ!名前まで、素晴らしい。御告げどおり、我が体を未成熟の肉体に変身させておいたからな、存分に触り倒すがよい。」

 神からのお告げでは、俺は幼女が好きな変態野郎らしい…。


「俺にそんな趣味はありませんから、どうやってここから出るのかを知りませんか?」

 彼女にここからの脱出方法を尋ねると、


「おかしいぞ、この肉体が好みで…、そうか!夫への呼び名が違ったな、確か、お兄ちゃん、だったな。では、早速、お兄ちゃんとの子供が欲しいな~。」


 このお告げを出した神は幼女にお兄ちゃん呼ばわりさせて、子供を求めさせるアブノーマルの度を越えた変態野郎らしい。


(どの神様だ…変態め、出てこい。説教してやる。)


(確か、メルは元凶を倒すって言ってた。元凶を倒せば、元の世界に戻れるのかな?)


 俺は取りあえず、幼女を連れて、元凶を倒すことにした。幼女に進む道を聞いて進んで行くと、ゾンビ達が集団で襲い掛かってきた。


「すまない、また、その杖で倒してくれないか?」

 幼女の魔法使いに頼むと、


「お兄ちゃん、今は大人の体じゃないから、一日待たないと使えないよ?」

 幼女の体では、魔法を連発出来ないと言われて断られた。


(うわ、とんでもないデメリットだよ。幼女は完全に趣味の世界だよ。)


 仕方がないので杖を持ってゾンビの頭を鈍器にして殴り飛ばしていたら、メルが言っていた、ゾンビは噛まないって事が本当かも、と思い始めた。彼らは行く道を邪魔して近付いては来るが、脳が腐っているから攻撃方法を知らない。


(とはいえ、囲まれてると覆い被さり圧迫されて押し潰されてしまう。)


「私のためにこんなにも必死に戦ってくれるなんて…。」

 少女は必死にゾンビを払い除けている俺の姿に感動していた。


 ゾンビも敵の親玉もバカなので、ゾンビが来る方向に親玉がいる事が分かった。囲まれないように少女を抱えながら、どんどん進んで行くとあからさまに親玉がいそうな建物があった。梯子を見つけたので二人でそこに登るとゾンビ達は登れずにようやく追いかけ回される事は無くなった。


「ここまで来れたのはお兄ちゃんが始めてだよ。ほとんどの者は最初の場所で死んじゃうから…。」

 彼女は俺以外にもいたが、全員死んだと話してくれた。


「何これ、ゲームの世界なの?だとしたら、親玉を倒すと元の世界に戻れるんだよね?」

 俺はリアルゲーム空間に入ってしまった事を少女に問うと、


「ゲーム?親玉?元の世界?お兄ちゃんは疲れてるの?」

 どうやら、この可愛い少女はこのクソゲーのヒロインらしい…。


(よし、親玉をブッ飛ばして、家に帰ろう。)



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