第4話 病んだ妹よりもヤバい彼女

 紗良さんで約二年過ごした記憶が残っていたため、亡くなった紗良さんのために妹の紗奈ちゃんを励まそうと姉だった時の記憶を話すと、


「お姉ちゃんなんだね!お帰りなさい!」

 姉妹しか知らない情報を話した途端、俺を姉だと認識して抱き付いてきた。


「いや、違うよ。どっからどう見ても、男性だよね?」

 そう言って紗奈ちゃんを引き離して現実に戻そうとすると、


「うん、ゴメンなさい。お姉ちゃんは今、男の人で他人の体なんだよね。大丈夫、どんな姿でも、お姉ちゃんは私のお姉ちゃんだよ。」


 姉を失ったショックで錯乱状態なのか、ちょっと情報を言っただけで、死んだ姉が別の人の体を使って会いに来てくれたと勘違いされてしまった。


(ヤバいぞ、これがメルにバレたら、姉と偽るゲス野郎になってしまう。)


 彼女に俺が姉で無い事と、家に帰ると交際中の女子高校生のメルと娘のルナがいるヤバい奴だと、自分で価値を落とす実状を知って貰うと、


「へぇ~、お姉ちゃんの奥さんは同級生なんだね…。娘もいるなら、お姉ちゃんがお世話になってるし、挨拶しないと。」

 逆効果になって、会いたいと言い出すようになってしまった。


(うん、帰ろう。これ以上関わると、俺の人生がさらにメチャクチャになる。)


「紗奈ちゃん、今日はもう帰るね。」そう言って家を出ようとすると、


「お姉ちゃん、私を一人にしないで…。」

 姉を失って間もない彼女は泣き始めてしまった。


 彼女を慰めたあと、帰ると泣いちゃうため、亡くなった紗良さんの部屋に入って、彼女がどんな人だったかを確かめていた。


(本当に妹思いだったんだな。二人は仲良しで、妹のためならって姉だったんだ。残された妹さんは酷だよ…。)


 複雑な家庭環境を知った俺は、


「紗奈ちゃん、寂しいなら、ウチに来る?メルに事情を話してみるよ。」

 少しの間だけでも一緒にいて、彼女の心を癒してあげよう。


「お姉ちゃん…、ありがとう。」彼女を家に連れて帰る事にした。


家に年頃の女子中学生を連れて帰り、母さんとメルに事情を話すと、


「陵、メルちゃんの気持ちを考えた事がある?お姉さんを亡くして心が傷んでいる女子中学生を騙して、家に連れて帰るって、いったい、どんな神経をしていたら、そう言う事が出来るの?」


 母さんはブチギレていた。


「メルは紗良ちゃんの話をしたこと無いのに、そこまで詳しいのは、陵くんが紗良ちゃんだったからなの…?うん!やっぱり、陵くんは面白いね!いいよ、紗奈ちゃん。今日から紗奈ちゃんはメルの義理の妹だから、よろしくね!」


 メルは転生とか、黄泉の国みたいな話が好きだし、俺が約二年間ほど、紗良として暮らしていた事を話して、紗奈ちゃんだけが知り得る情報を知っていると話すと信じて、アッサリ認めてしまった。


「ありがとうございます。よろしくお願いします。メルお姉さん。」

 紗奈ちゃんはメルになついてしまった。


 変な形で俺に妹が出来てしまった。母さんもメルが良ければ、私は何も言わないと言いつつも、娘として扱えると聞いて何故か嬉しそうだった。


俺の部屋は三人部屋になった。メルと紗奈ちゃんが住むことになり、


「では、陵くんの体験談とやらを聞こうか?」


 メルは俺が体験した現象を聞きたくなったらしく、話せと言ってきたので、紗良さんが亡くなった日にあの門に行って起こった出来事。紗良さんに三途の川の前に出会い、死神に会って逃げた紗良さんを連れてくる事になり、紗良さんのボロボロの体を使って、彼女に会うまで、二年ほど掛かってしまった事。


 その間にルナが産まれていて、体を戻して死神の力で時を戻したが、メルが娘のルナを抱えたまま戻ってきたため、メルや母さんたちの記憶がルナが存在する記憶に置き換わった事を話した。

 

「何故、昨日に話してくれなかったの?うん、でも、こうして紗奈が来なかったら、信じなかったかも。」


 メルは紗良の死と存在を詳しく知る俺と紗奈が居なければ、信じなかったと話して、納得していた。


「私、お姉ちゃんががんばって私を支えようとしていたんだって知れて良かったです。だから、陵さんも二年間は私のお姉ちゃんだって事も知って良かったです。」


 紗奈ちゃんは真実を知っても、俺を姉呼ばわりしてくる。


「やっぱり、この手の話は楽しいね。今度の休みはホラー映画を見に行こうよ。」

 そう言って、メルは俺を映画に誘って来ると、


「あっ、じゃあ、お姉ちゃんたちの代わりに私はルナちゃんの面倒を見ますね。お姉ちゃんたちはデート楽しんでよ。」

 紗奈ちゃんはメルよりもルナの事を考えてくれていた。


(コイツ、子育てがつまらないから、紗奈ちゃんに押し付けるつもりで、家族にしたのか?記憶が無い俺よりもゲスい親じゃねぇか…。)


「ありがとう!持つべきは可愛い妹ね。紗良もありがとう、素敵な妹をメルの妹にしてくれて。」

 俺を紗良呼ばわりして抱き付いてきた。


(結局、子育てが嫌なだけじゃねぇか。)


 こんな女と結婚したくね~よ。母親がこれじゃあ、ルナが可哀想だよ。


 ルナは基本的にまだ40代で元気な母さんが面倒を見ている。俺も申し訳無いので、お風呂にいれたり、ご飯を食べさせたりして手伝うが、メルは子育てをちゃんとしているフリをしながら、俺の手柄を横取りするため、母さんから怒られるのはいつも俺って事になる。そこに子育てを手伝わせる要員をもう一人、義理の妹として囲う事に成功したメルはますます、子育てに携わる事をしなくなっていた。


「メルがもう一度、紗良ちゃんに会わせてあげるから…。」

 そう言って、怖い話やオカルト話を好きになるように、紗奈ちゃんの嗜好を自分に近付けるように、コントロールし始めた。



「メルお姉さん、調査、がんばってください!」

 休日に俺とホラー映画を見に行くだけのメルを応援して、紗奈ちゃんはルナを抱っこしながら見送ってくれた。


(母さんの中では、俺が強引に休日は子育てをしたいメルを連れて行く形になっているんだろうな…。紗奈ちゃんはすっかり、メルの行いは正しいと信じきっているし、母さんの俺に対する評判は下がりきっているよ。)


「では、陵くん。今回はホラー映画から飛び出すゾンビ達のウワサに付いて検証しようね!」

 趣味のオカルト話をし始めて、休みを満喫するつもりだ。


(休日くらいはルナの子育てをしろよ。あの時、お前が抱えていたから、産まれた事になり、存在する事になったんだろうが…。)


 どこまでも自分勝手なメルに呆れて俺は言葉が出なかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る