第3話 体を取り返しても、ろくな目にしか遭わない

取りあえず、俺の家に入り、事情を話すと、

「マジで陵くんなの?これは良いよ!霊が戻ると空いている体に人が入り込む現象が発生するのか。女の体はどうなの?」


 この変態は事態を楽しみ始めて、色々と聞いてきたが、


「こっちはずっとリハビリ生活だよ!今も走ったり出来ないんだよ?」

 動くのがやっとの体を与えられて、苦労していた話をしたら、彼女は、


「今の陵くんは楽しそうだよ。メルを無理矢理犯して妊娠させて、結婚したし、就職して会社員になってるし、満喫してる。体を取り返した所で、今の陵くんみたいに会社員務めして、メルとこの子を養っていけるの?」


 子供を産んだ影響で、意外とまともな事を言い出している。


「それもそうだな…、あの頃の元には戻れないな。俺はメルと結婚したいとは思わなかったし、体を取り返しても、離婚するような事も出来ない。」


 こんな事になっているとは思わなかったため、悩んでしまった。


「まあ、メルのせいだし、あの頃の陵くんの方が好きだから、手伝ってあげるよ。」


 そう言って、彼女はスマホで陵の体にいる彼女を呼び出すつもりだ。


「結婚、妊娠、出産をしたけど、あの頃のスリルが足りないんだよね…。」

 彼女は今の生活に不満があるらしい。



 夕方になり、俺の体にいる彼女が帰ってきた。彼女は自分の姿を見た瞬間に、


「ごめんなさい!私が勝手な事をしたから!あなたに迷惑を掛けてしまいました。」

 このあと、彼女は頭を下げて、死を受け入れると話してくれた。


「知ってるよ…自分が死んだら、妹が取り残されてしまうからでしょ?君の妹さんが言っていたよ。親切な男性がいつも助けてくれるって…、俺の体で働いて、妹の支援をしていたんだろ?」


 俺の体で働きまくって、彼女は妹の学校に行ける金を捻出していたのだった。


「はい、私が死んだら、妹が不幸になります。だから、あなたに返せと言われるまで、あなたの体を使わせてもらいました。」

 彼女はそう告げると、もう大丈夫だから、連れて行って欲しいと話してくれた。


 彼女の事情もあるが、俺もまだ、死にたくない。例の場所に行った俺たちは鍵を使い、あの世に再び足を踏み入れた。事情を見ていただろう、死神が待っていて、問答無用で彼女の魂を抜くと、俺を元の体に戻して、


「うむ、時が経ちすぎて誤差が出ているな…、あの頃の時へ戻してやろう。外に出るといい。あの時間に時は遡ってあるはずだ。もう、入って来るなよ?」


 そう言って、死神は強制的に門から外へ追い出してしまった。



 目を開けると、前よりも厳重に封印されている門の前に立っていて、あの頃の服装であの頃の体に戻っていた。メルを見ると、彼女もあの頃の幼い風貌に戻っており、俺たちの子供を抱えていた。


(あれ?子供が何故いるの?)


「おい、メル…、なんで子供を抱えている。」

 あの頃にはいるはずの無い子供が存在していたので、


「え?だって、今日は休みの日だし、ルナと三人でピクニックに来たんだよ?忘れたの?」

 彼女はあの世の事も紗良ちゃんの事も、何も覚えていなかった。


 その後、メルは俺に扉の事を聞いて来ないため、ピクニックなら…、って広い場所まで出て、お弁当を食べて、親子仲良く遊んで帰ることにした。


(なんか、納得いかないよ。メルとHしたことも無いのに、子供が産まれているなんて…。)


 メルに話を聞くと、高校生になったばかりの彼女と関係を持って、交際歴は約二年経っていて、今度の18歳の誕生日に籍を入れると話していた。家に帰ると、俺の部屋は二人部屋になっていて、母さんは孫が可愛くてしょうがないみたいで、平日は学校に行く俺たちの代わりに面倒を見ていた。俺への扱いは変わらず…、


「陵!メルちゃんに二人目を要求したそうね!あなたは大学生の身分で、彼女はまだ高校生よ?本当に、頭がおかしいのかしら?」


 実の親から前よりもヤバい奴と認定されていた。


「お義母さま!メルが悪いんです!陵くんの夜の生活を満足させられないのが、原因なんです。」


 彼女はまた、俺を悪者にして評判を下げだしてくる。


 今回の事に巻き込まれた俺は、自分の子供が出来た代わりにメルとの結婚がほぼ決まっていて、家族や大学の同級生からは幼馴染みの年下女子高校生を襲って妊娠させて産ませたゲス野郎と認定されていた。


 夜は俺のベッドにメルが一緒に寝てくる異常な光景が日常化されて、


「陵くんはメルの事、好きなんだね。毎日一緒に寝てるのに、興奮してくれて、そこは元気そうだね。」


 俺の膨らむ股間を見て喜んでいた。


 若い女性に密着されて、興奮しない男はいない。紗良ちゃんが俺の体で無防備メルを襲っちゃった理由、分からなくもないよ…。


「メルはどうなんだ?俺の事が好きなのか?」

 無防備にくっついたり、一緒に過ごしたりする彼女に聞くと、


「陵くんが好きっていつも言ってくるし、もっと子供が欲しいと迫って来るじゃん。メルは俺の女だっていつも大声で叫んでいるし、みんな陵くんが怖いから、メルには手を出さないんだよ?」


 そんなヤバい俺だから、楽しいし、一緒にいると言ってくれた。


(そんなことを言った覚えはないが、メルやみんなの中ではそれくらいヤバい奴に認識されているのだろう…。)


 どう人生を躓いたら、こうなるんだ?


 でも、メルの同級生の紗良さんは死んじゃったんだよね。時を戻されたって事はあの妹さんはこれから苦労するのかな…。



 俺は翌日、記憶が残っていたため、紗良さんの家に行くと、姉が亡くなり、家族を失ったショックで涙が止まらない妹さんがいた。彼女の家庭は子育てに無関心な親が生活費以外は与えず、放置するような家だった。


(俺が出来るのは、紗良さんのように彼女を支援する事ぐらいかな…。)


「姉のためにお越しくださりありがとうございました。姉とはどんな関係だったんですか?」

 妹の紗奈ちゃんに聞かれた俺は、


「う~ん、信じて貰えないかも知れないけど…。」

 俺に起こった出来事を話し始めて、姉妹の知っている情報を話し始めると、


「お姉ちゃん!戻ってきてくれたんだね。」

 俺は姉では無いのだが、何やら…勘違いされてしまった。


 この展開はどう転んでも、嫌な予感しかしないんだけど…。

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