第2話 黄泉の国の神様
死者の通る門の前で開かない門を開錠するため、変な手袋で俺は魂的なモノにされてしまい、門の向こう側へ連れて行かれた。
「わぁ~、三途の川だよ!始めて見たよ!」
俺を殺して、生きているまま侵入した彼女は興奮していた。
渡ったら本当に死んじゃうアレだと思った俺は、
「渡るなよ!死ぬぞ!」と彼女を止めるが聞こえていない。
「メルちゃん、どうしているの?」
後ろから女性の声が聞こえて来たので振り向くと、可愛らしい女の子が立っていた。
「君は誰なの?もしかして、メルの同級生の人?」
生きているメルには声が届かないため、俺は彼女へ話し掛ける事にした。
「えっと…、確か、メルちゃんの彼氏さん…。」
彼氏では無いのだが、彼女に俺たちの事情を話すと、
「あ、やっぱり、私は死んだんですね…。でも、メルちゃんだけは生きているから、私たちの声が聞こえないんですか?」
彼女は理解したが、俺は死んだ事にされてしまった。
死んだ事にされた俺と何らかの理由で死んだ彼女。俺たちが立ち尽くすのを尻目にメルは死人だけが来れる世界に興奮して、色々と落ちている物を拾ったり、写真を撮り始めたりしていた。
(アイツはバカなの?俺を殺しておいて楽しめるなんて…。)
しばらくすると、川の向こう側から変な格好の男性が飛んできて
「ん?行くのは一人と聞いていたが、何故、三人もいるのだ?」
本来、死ぬはずだった、メルの同級生の彼女以外は異端な存在のため、不審がられた。生きているメルは男性がまったく見えていないし、俺が代表して彼に事情を話すと、
「はぁ、たまにこんな愚かな奴がおるな。部外者は悪いが出ていってもらおう」
彼はメルを掴んで入ってきた場所の門を開くと、実体があるメルが先に外へ追い出された。そのあと俺を外に出そうとした時に、
「私、まだ死にたくありません!」
メルの同級生の彼女が先に門の向こうへ飛び込んでしまったため、
「あっ、失敗した。」男性が頭をポリポリしながら俺に、
「じゃあ、行きましょうか、えっと…、
残された俺に向かって、彼女の名前を呼んだため、
「てめぇ!俺の見た目を見て、どこが、女性に見えんだ?」
俺は変な格好の男性に詰め寄ると、
「どっからどう見ても、女性にしか見えませんよ?」
そう告げると、俺の体をそのまま持ち上げて、川の向こうに側に連れて行かれてしまった。
抵抗をしたいのだが、彼に掴まれると力が入らないため、問答無用で川の向こうの建物に連れて行かれた。
「おい、お前…、またしくじったな。」
男性の上司っぽい、死神の格好をした奴が俺の姿を見て、部下の男性にブチギレて怒っていた。
(ほら!即効でバレたじゃんか!)
俺は呆れていた。ずさんな管理体制もそうだが、こんなポンコツ野郎に川の案内人を務めさせていたことに…。
「名は猪狩と申すのか…、では、猪狩。このまま彼女の代わりに死ぬか、逃げた渡来 紗良と言う女をここに連れて来るかを選べ。」
死神の格好のギリシャ神話の黄泉の神様ハデスみたいな人に尋ねられたので、
「彼女になんで死にたくないのかを聞いてみようと思います。理由を聞いて、納得が行くまで話し合って、死を受け入れてもらおうと思います。」
至極まともな答えを話すと、
「真面目な奴だな…。まあいい、じゃあ、お前にしか使えない門の鍵を渡しておく。では、検討を祈っておるぞ。」
そう告げて、再び川の岸に戻されて、出口を探そうとしたら…、
「こちらが出口です。申し訳ございませんでした。」
ポンコツ男性に謝罪をされたため、もういいよと告げて、出口から出た。
目が覚めると病院で眠っていたのか、真っ白な部屋にいた。
(目を覚まさないから、メルが救急車を呼んでくれたんだな…。)
首が固定されているため、首が回らないし、正面しか確認出来ない。全身の感覚も無くなっていて、体がまるで動かないし、全身が骨折しているみたいで、動かそうとすると激痛が走る。声も出せない。
どういう状態なのかを聞きたいが声が出ないし、会話が出来ない。しばらくして一人の少女が俺の所にやって来て、
「紗良お姉ちゃん!良かった…、目が覚めたのね…。」
少女が俺を紗良と呼んだので理解した。
(事故に遭った渡来さんの体なんだ…。って事は俺の体は彼女が使ってるのかな?)
声が出ないため、そのまま、看護師さんが処置をしてくれて、俺は紗良さんの体で一通りの女性の事を覚える形になった。そして、声が出せるようになり、紗良さんの妹に事情を話すと、記憶障害扱いされ、信じて貰えない。上半身や手を動かせるようになるまでに二ヶ月掛かり、ようやく理解した。目を覚ますのに一年以上も時が経っていた事に…。
一年以上も経つと同級生も見舞いには来ない。スマホの連絡先にメルの名前が無かったため、特に親しい間では無かったみたいだ。知り合いを介してメルの所在を聞くと、すでに高校を卒業しているため、分からないと言われた。
(今、彼女は大学に行っていれば、一年生で俺は順調なら四年生のはずだ。メルの事だから、俺の中身が違う事にとっくに気付いているはず。)
二人とも、見舞いにも来ないため、所在が掴めない。足が動くのにあと何ヵ月掛かるのかが分からない。取りあえず全身の体が動かせるように、リハビリをしてさらに一年、経った。
結局、まともに動けるようになるまでに、あの日から二年以上の歳月が流れてしまい、紗良さんの体で、俺の家にたどり着き、チャイムを鳴らした。
名前を名乗ると、ドアが開き、少し成長したメルと知らない子供がいた。
「紗良ちゃん!久しぶり~、事故に遭って意識不明だって聞いたけど、元気になって良かったね。」
メルは普通に俺を紗良として認識し出した。
(普通に紗良だと思い込んでいやがる…。気付いてくれよ。)
「メルは、結婚したんだ~、前に話していたでしょ?彼氏の事。この子は彼の子供なんだ。名前はルナだよ。」
二年経つと、俺とメルは結婚していて、子供が出来ていた。
(うん、色々と泣けて来たよ…。こっちは死ぬほど、人の体を動かすためにリハビリをがんばっていたのに。酷いよ。)
知らない間に俺の人生は様変わりしてしまっていた。
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