彼女はゲス野郎の俺が好き

サトリ

第1話 ホラー話よりも怖いのは彼女

「休みの日くらい、家でゆっくりしたいんだけど…。」

 大学が休みの日なので、俺、猪狩いかり りょうは自分の部屋で寛いでいたんだが、


「え?陵くんは休みの日はメルに会いたかったんだね。」

 この八城やつしろ メルには日本語が通じないらしい…。


「お前は高校に友達がいるだろ?休みの日くらいそいつらと遊んでこいよ。」

 俺はメルに同級生と遊んでこいと告げてあしらうと、


「だって、メルの話を喜んで聞いてくれるのは、陵くんだけだもん…。」

 彼女はしょんぼりすると、いつものアレを話し始めた。


 いつものとは、ホラー関係のオカルト話だ。彼女は何故か、女子なのに…怖い話が大好きなのだ。しかも、かなりリアルなため、同級生や親はみんな気持ち悪いと言い、聞くのを嫌がり、逃げ出すのだ。


「メルの話を聞いてると、いざと言う時に役に立つよ?」

 ニコニコしながら、今日は死者の世界の話をし始めた。


(笑顔だし…。死んだあとの話をしても、仕方ないだろ?)


そして、一方的に話をし終わると、

「じゃあ、予習勉強は終わったし、死者が通るって言われてる門にデートしようよ。」

 こんなヤバい奴を彼女にした覚えは無かったので、


「そんなもん、ネットで仲間を集って行ってこい。趣味が会う奴と言った方が良いに決まっているだろ?」

 そう告げて、花のJKだし、スマホの出会い系で集めろよ、と告げると、


「え?だから誘ってるだよ?服はこれとこれを着てね。さあ、脱いで!メルが着替えさせてあげるから。」

 彼女が服を脱がそうとしたので、


「やめろ!追い剥ぎか!行くとは一言も言っていないぞ!」


 そう言って抵抗していると、彼女が、自分の着ている服を乱し始めて、突然叫びだしたあと、柔道のように俺に足を掛けて、ベッドに押し倒した反動を使い体勢をひっくり返した。それと同時に母さんが部屋に乗り込んできた。


「陵!あんた、メルちゃんを押し倒して何をしてるのよ!」

 ベッドに倒れるメルと俺を見て激怒していた。


(まるで押し倒している状態になっていたため、形勢は圧倒的にこちらが不利だった。)


違うと弁明すると、

「何が違うの?あなた…、この間もメルちゃんをお風呂に連れ込んで、股間を洗えって強要した所だよね?いくら付き合ってるからって、強要と強姦は犯罪よ!」


 母さんの中では俺とメルは付き合っていて、俺は彼女に性的な犯罪をいくつも起こしている常習犯になっていた。


「おば様、ごめんなさい、デートに行くから、アレを着ろって言ってきて、嫌がったら、無理矢理、私を脱がそうとしてきたんです…。」

 俺に着ろと指示した服を指して答えていた。その服を母さんが広げると、露出高めのアニメキャラのコスプレ服だった…。


「陵、あなたはいつからそんな変態になったの?彼女にこんな物を着せて、恥ずかしい思いをさせて何が楽しいの?」

 完全にキレた母さんが今日こそは警察に突き出すと息巻いたため、


「おば様!メルが悪いんです!陵くんがこんな変態になったのは不甲斐ない彼女の私なんです。だから、私は何もされてない事で良いので、彼を許して下さい。お願いします。」

 そう言って、母さんに何も見ていない事にしてくださいと頭を下げ始めた。


 ここまでされると俺は母さんにも、彼女にも謝り倒さないといけなくなる。母さんは怒り狂ったあと、二度としちゃダメよと告げられて、ようやく説教から解放された。



俺の強姦未遂事件のすべてが終わると、

「さあ、陵くん。デートに行こっか?」

 何事も無かったかのように、話を戻し始めた。


「断ったら、次はどうするつもりだ?」彼女に尋ねると、


「え?でも、陵くんが行きたいって言ったんだよ?」

 こうして、記憶の障害が発生してしまう。


 俺は渋々、着替えをするが、彼女は俺の着替えをガン見してくる。日によっては下着までに着替えろと強要してくる。断ると、俺の評価を地に落とす行動を取る。そのせいで俺は変態扱いを受けて、多くの友人を失った。俺は基本的に彼女としか喋れないのだ。


「でも、同じ趣味の幼馴染みの彼氏がいて、メルは嬉しいよ。」


 そう言って、移動中も不思議な話のトークを繰り広げてくる。聞いてない態度を取ったり、楽しそうにしてないと、電車の中で俺に過剰なスキンシップを加えた結果…、痴漢騒動に発展する。



 電車、バスを乗り継ぎ、到着すると彼女が言っていた場所は、明らかに入ってはいけない感じがする場所だった。


「メル、ダメだよ…、勝手に入っちゃあ。」俺が制止すると、


「陵くん。カバンの中の計測装置を貸してよ。」

 彼女に持たされていたリュックのポケットから謎過ぎる計測装置を取り出すと、数値計測を始めた。


(リュックの中の道具はどれも胡散臭いし、止めさせたいんだけど…、何か反論すると、俺がひどい目に遭っちゃうからな。)


「ビンビンするね、きっと…、その先は冥界だよ。」

 ぐるぐる巻きの鎖が取っ手にされている門を指して彼女はそう告げると、


「仕方ない、陵くん。門の封印を解く魔法道具を貸してよ。」

 このデカイリュックにそんなものがあるの?俺がリュックを下ろすと彼女はリュックの中から金属製の棒が取り出していた。


(うん、知ってるよそれ…。バールでしょ?何かをこじ開ける道具。)


 彼女は門を力ずくでガチャガチャと破壊し始めた。器用に鎖に先端を引っ掛けて外すと、残りは扉の解錠のみとなった。彼女は扉を開けようとしたが、開かない。


「なんで開かないのかな?陵くん。」聞かれたので、


「死んだ人しか通れないからじゃないのかな?」

 死者の通る門と聞いていたので、そう話すと、


「なるほど、じゃあ、死んじゃえ!」

 彼女は変な手袋を用意して俺を掴むと、フワリとした感触で体が軽くなり俺の体がその場に倒れた。その瞬間、目の前の門が開き始めたので、


「よし、それじゃあ、冒険に行こ~。」

 手袋で俺を掴んだまま、彼女が門に入ろうとするので、


「おい、メル!俺の体が倒れたままだぞ!」

 彼女に話し掛けるが、まったく聞こえていない。ほぼ、死人の俺には彼女の声が聞こえていないみたいだ。


(冗談じゃないぞ。殺されて死人の所に連れて行かれるなんて…。)


 彼女は上機嫌で幽霊的なモノになった俺を掴んだまま、門の中へ入って行った。

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