♯19 伊藤花菜
「麻里子さまに相談したい事があります…会っていただけませんか?」
珍しく、H高校の伊藤花菜ちゃんから僕個人宛に連絡があった。
僕と花菜ちゃんは仲が悪い訳ではないが、二人きりで会ったことがなく、グループでいる時も、僕の隣には常に瞳美ちゃんがいたので、二人だけで会話をする事も稀だった。
そんな関係の薄い僕と会いたいという事は、相当深刻な相談があるようだ。
僕は花菜ちゃんの家がある伏見稲荷の駅で待ち合わせをした。
伏見稲荷大社は、僕も何度か来たことがある千本鳥居で有名な観光地でもあった。
僕が中学の修学旅行で初めて来た時は、本当に鳥居が千本あるのか数えようとしたが、実際には一万本以上あると聞かされ、数える事を断念した思い出がある。
この手のネーミングは、千本と言っても実際には百本くらいしかないパターンが多く、その逆のパターンは珍しかった。
「麻里子さまw」
「えっ、花菜ちゃん?」
花菜ちゃんは私服で待ち合わせ場所にやって来たが、彼女の私服は清楚な感じで制服姿とはイメージが違っていた。
普段の花菜ちゃんはギャルっぽく、僕の友達の女子高生の中では一番スカート丈が短い子だった。
僕は花菜ちゃんの自宅に招かれることになった。
花菜ちゃんの家は高台にある一軒家で、豪邸と言っても差し支えない立派な家だった。
「花菜ちゃんって、お嬢様なの?」
「そんな事ないですけど、一応、父も母も社長ですw」
「お嬢様じゃん!」
僕は彼女のご両親に会った時に、どちらの性別で接するか迷っていた。
「あっ、それなら大丈夫ですw 家には私しかいませんからw」
「でも、駐車場に車があるよ」
立派な門の奥には3台分の駐車スペースがあり、その全てに高級そうな自動車が停まっていた。
「今は、父も母も海外に出張中なんですw」
「そうなんだw」
島国の日本から自動車で行ける外国は存在しないので、自宅に自動車が残っているのは当然の事だった。
花菜ちゃんのご両親は、それぞれ別の会社の経営者で、お二人共、今は海外に出張中との事だった。
「お邪魔しますw」
「いらっしゃいませw」
僕が花菜ちゃんの家の玄関に入ると、そこには東南アジア風の置物や装飾品が所狭しと並んでいた。
恐らく、花菜ちゃんのご両親の会社は東南アジアの国と取引があるようだ。
「ところで、相談って何?」
東南アジアテイストが全くない花菜ちゃんの部屋に通された僕は、話を切り出した。
「はい…実は、私には付き合ってる彼がいまして…」
「知ってるよw 私と同い年の大学生なんでしょw」
「はい…で、その彼に両親が海外に出張中だって言ったら、今度の土曜日に泊まりに来ることになっちゃって…」
「あっ、分かった! 私に料理を教えてもらいたいんだw」
京都で一人暮らしを始めた僕は、女装以外に料理にも嵌っていた。
料理はメイラード反応や乳化などの化学反応を応用していて、しかも、色どりや盛り付けなどの芸術的センスも必要としていた。
科学と芸術の融合…それは、僕が嵌る事に共通していて、大学で専攻している建築学も科学と芸術の融合だった。
そして、女装も人体の構造を科学的に理解し、尚且つ、メイクやファッションなどの芸術的な知識も必要で、まさに、女装は科学と芸術の融合と呼べた。
「いえ、違うんです…」
「えっ」
「実は私…処女なんです…」
「え~~~!!!」
僕は今年一番の衝撃を受けていた…。
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