♯09 中村瞳美

「私って、目つきが悪いですよねw」

「そんなことないよw」


 瞳美ちゃんは腫れたまぶたと細い目を気にしている様子で、メガネも視力を矯正する為と言うより、目元を隠す為に装着しているようだった。


「名は体を表す」という言葉があるが、瞳美ちゃんの「瞳」は皮肉なことに魅力的なパーツとは言えなかった。


 恐らく、瞳美ちゃんは子供の頃から高い身長と悪い目つきを男の子たちに弄られていたようで、自分の容姿に全く自信を持っていなかった。


 しかし、メイクの技術は進歩していて、どんな瞼でも整形並みの綺麗な二重にすることが可能になっていた。


 二重幅が狭い僕も、女装をする時にアイテープを愛用していたので、瞳美ちゃんにもアイテープを貼ることにした。


 アイテープを貼るのにもコツとテクニックが必要だったが、メイクに慣れていた僕は、瞳美ちゃんの瞼も綺麗な二重にすることが出来た。


「嘘…これが私…」

「うん!凄く可愛いよ!瞳美!」

「信じられない…視界も広くなってる…」


 綺麗な二重瞼になった瞳美ちゃんは、自分の変貌した顔に驚いていて、それと同時に、目の開口部が広がった事による視野の拡大にも驚いていた。


 普段から全くメイクをしない瞳美ちゃんの顔は、早耶ちゃんよりも変化の落差が大きく、メイクを見学している他の学校の女子高生たちから拍手や歓声が上がる程だった。


「すごい…」


 自分の変貌した顔を見た瞳美ちゃんは言葉を失っていた。


 メイク前の瞳美ちゃんの顔は、ストレートな言い方をすれば「ブス」で、腫れた瞼から凶悪犯の様な印象になっていた。


 しかし、メイクをした瞳美ちゃんは「学校に通いながらモデルの仕事をしている」と言っても、誰も疑わない程の美人になっていた。


「どうかな?」

「何か、自分じゃないみたいで、恥ずかしいですw」

「恥ずかしがらなくてもいいよw めっちゃ可愛いよw」

「そ、そんな…」

「うん!本当に可愛いよw 瞳美w」


 僕は他人にメイクをする楽しさを知り、彼女たちが喜ぶ様子を見て誇らしい気持ちになっていた。


 それは、セックスと似た感覚だった。


 男の性的快感は一瞬のことで、僕がセックスをする楽しみは、女性を悦ばせることだった。


 自分のテクニックで女性を悦ばせる…それは、僕の中にある支配欲を満たすことでもあった。


「あなた達もしてみる?」


 テンションの高くなった僕は、目の合ったギャラリーの女子高生たちに、つい声を掛けてしまった。


 女子高生たちは僕のメイクテクニックに驚いている様子で、実演販売を見ている主婦のようになっていた。


 今ならきっと、僕の持っているメイク道具は飛ぶように売れる筈だ。


「えっ!いいんですか!」

「勿論w」


 僕は追加で3人の女子高生にメイクをすることになったが、色んな種類の顔にメイクをすることは楽しく、メイクの勉強の成果を如何いかんなく発揮できて満足していた。


「ねえ!麻里子さまも一緒に撮りましょw」

「うんw」


 僕はテンションの高くなった早耶ちゃんたちに呼ばれ、一緒にプリクラを撮ることになった。


 僕は女としてプリクラを撮ることが初めてだったが、女の子らしいポーズで写真を撮ることは想像以上に楽しく、プリクラという文化が何十年もすたれない理由が理解できた…。

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