♯08 メイクアップ

「わぁ〜!すごい! それって、プロ用ですか?」


 僕のメイク道具を見た早耶ちゃんが感嘆の声を上げた。


 似たような色ばかりの108色のパレットや10本以上ある様々な形の筆…それらは全てプロ用のメイク道具だった。


 美容の専門学校のテキストで勉強した僕は、使う道具も必然的にプロ用を使うようになっていた。


 メイクには、色の三原色や、色相・明度・彩度の三属性の知識と、俗に「目の錯覚」と呼ばれる錯視さくしの知識が必要で、それらの知識を組み合わせることで成立していた。


「じゃあ、始めるねw」

「お願いしますw」


 僕は早耶ちゃんと向かい合わせに座り、彼女の前髪を持ち上げてヘアクリップで固定するとメイクを始めた。


 僕は自分の顔にしかメイクをした経験がなかったが、他人にメイクをする前提で書かたテキストを基に勉強をしていたので、早耶ちゃんにメイクをする方が自分にするより簡単だった。


 僕はテキストに書かれていた通り右手の小指にパフを装着し、筆を持った手が早耶ちゃんの顔に触れないようにした。


 本当は顔の産毛を剃った方がメイクのノリが良くなるが、今回は主にアイメイクだけをするつもりだったので、早耶ちゃんの産毛を剃ることはしなかった。


 メイクには色んな方法があったが、今回は僕もしているアイドル風のメイクを早耶ちゃんにレクチャーするつもりだ。


 先ずはメイク下地のクリームを塗る。


 これは、塗装のサフェーサーと同じで、皮膚に化粧品をつきやすくする効果があり、化粧崩れを防止する役割もあった。


「すごい! 目が大きくなった!」


 僕の後ろに立って、メイク作業を見ていた瞳美ちゃんが感嘆の声を上げた。


 僕が振り返ると、そこには他の学校の女子高生もいて、僕のメイク作業を見学していた。


 恐らく、その女子高生たちもカウンターに広げられたプロ用のパレットを見たことがなかったようで、可愛く変化していく早耶ちゃんの様子を興味深く見守っていた。


「こんな感じでどうかな?」


 メイクにはきりがないので、アイメイクを終えた僕は、軽くリップを塗ってから早耶ちゃんに意見を求めた。


「すごい!これが私…?」

「早耶!すごく可愛いよ!」

「本当?」

「うん!」


 鏡に釘付けになっていた早耶ちゃんは、僕の方を向くと喜びを爆発させた。


「麻里子さま!ありがとう!」


 早耶ちゃんは僕に抱きついて喜びと感謝の気持ちを伝えたが、僕の頭の中は彼女の柔らかい乳房の感触に支配されていた。


「いえいえw」


 僕は冷静さを保つのに必死になっていた。


「早耶がこんなに変わるなんて、麻里子さまって本当にすごいですねw」

「じゃあ、次は瞳美ちゃんねw」

「えっ!私はいいです…」


 瞳美ちゃんは早耶ちゃんと中学からの友達だったが、早耶ちゃんと違ってメイクやファッションに興味がなく、自分よりも背の高い僕のことが気になって、ついて来ただけだった。


「気に入らなかったら、すぐに落とせばいいしw」

「そうだよ!せっかくだから瞳美もしてもらえばw」

「そう…」


 瞳美ちゃんは早耶ちゃんにうながされ、メガネを外し僕の向かいに座った…。

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