♯06 背の高い女の子

 僕は仲良くなった吉田早耶ちゃんと、頻繁に連絡を取るようになっていた。


 早耶ちゃんとのやり取りは他愛のない内容だったが、驚いたことに、彼女にはメイクに関する基礎知識がないことが分かった。


 それは、早耶ちゃんがメイクの専門教育を受けていないからで、彼女はSNSや友人から得た断片的な情報だけでメイクをしていた。


 一般的に女性がなりたい顔は、目が大きく鼻が高く顎や輪郭がシャープな顔だが、その顔の特徴は男の顔の特徴と一緒だった。


 集団で狩りを行っていたホモサピエンスのオスは、獲物に気付かれないようにアイコンタクトで会話をする必要があり、そのために目が大きく黒目が目立つように進化し、それに伴ってまつ毛も長くなっていた。


 女性が魅力的に感じるのは男の顔で、彼女たちは無意識の内に自分の顔を男の顔に近づけようとしていた。


 専門知識を得る前の僕は、顔が平べったい女性と同じメイクをしていたので、顔がケバくなっていたが、専門書で知識を得た僕は、顔の特徴に合わせたメイクにより、顔の印象を自由に変える事が出来るようになっていた。


 早耶ちゃんは、僕のメイクの知識に驚いていて、直接会ってメイクの指導をすることになった。


「すみません!お待たせしちゃって!」

「謝らなくていいよw 私が早く来ただけだからw」

「麻里子さまは、今日もお綺麗ですねw」

「ありがとうw でも、早耶ちゃんの方が可愛いよw」


 女同士の社交辞令を済ませた僕が歩き始めると、早耶ちゃんが僕を呼び止めた。


「あの~、友達を連れて来たんですけど…いいですか?」

「勿論w」


 早耶ちゃんが後ろを向いて手招きをすると、一人の女子高生が小走りで僕たちの元にやって来た。


「同じクラスの中村瞳美なかむらひとみちゃんです」

「はじめまして! 瞳美です!」

「こちらこそ、はじめましてw」

「すごい! やっぱり、近くで見ると、めっちゃ美人ですね!」


 瞳美ちゃんは僕に会うのが初めてではないような言い方をしたが、どうやら早耶ちゃんは、僕が送った自撮り写真を瞳美ちゃんにも見せていたようだ。


 早耶ちゃんが連れてきた瞳美ちゃんは背の高い女の子だった。


 瞳美ちゃんの身長は僕と同じくらいだったが、彼女は高身長女子特有の猫背の姿勢をしていて、夏なのにスクールベストを着用し、膝が隠れる長さのスカートを穿いていたので、彼女の第一印象は地味で目立たない女の子だった。


 そんな猫背の姿勢をしている瞳美ちゃんは、女性の骨格をしているので男らしい印象にはならなかったが、背が高いことがコンプレックスだと分かった。


 女性は本能的に他人と違うことを嫌う傾向にあった。


 ホモサピエンスのオスが狩りをしている間、メスは集落に留まり集団で子供の世話をしていたので協調性が重要となった。


「周りと同じで目立たない事」…それが、女社会で生きていく為に重要なことで、女性は周りと同じ格好をすることで安心が得られた。


 瞳美ちゃんの猫背は恐らく無意識でしてることだったが、身長を他の女性に近づけることで、女社会に溶け込もうとしているようだった。


 ただ、男である僕は女社会で生きていく必要がないので、背の高さを隠すようなことはせず、それどころか、ローファーの中敷きの下にシークレットソールを仕込み、脚を長く見せる工夫をしていた。


 僕はハイヒールが好きで、制服女装をする前は、常にハイヒールを履いて女装外出をしていた。


 ハイヒールには脚を長く綺麗に見せる効果以外に、姿勢を女らしくさせる効果もあった。


 そう、僕は男の格好をしている時よりも、女装をしている時の方が5センチほど背が高くなっていた…。

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