♯05 可愛くなる為に

 男女の体には様々な違いがあるが、最も大きな違いは骨格だ。


 骨格の違いは洋服やメイクでは、どうすることも出来ない…しかし、その対処法はあった。


 ネットには色んな女装の情報が溢れていた。


 僕は、その一つ一つを検証し試行錯誤を繰り返した。


 まず、身体全体のシルエットの違いだが、これは、姿勢を矯正することで対処できた。


 肩を落とし肩甲骨同士をくっつけるように胸を張り背骨を反らて、お尻を後ろに突き出しながら上体を起こす…たったこれだけの事で、僕から男らしさの殆どが消えた。


 胸を張る姿勢は男らしくなる印象だったが、それは逆で、ヱヴァンゲリヲンのような前傾姿勢こそが男らしく見える姿勢だった。


 また、胸を張ることで肩幅が狭くなり、後姿も女らしくなっていた。


 僕が自分の私物となった学園祭の時に着たメイド衣装に着替えると、部屋の姿見には違和感のない可愛い女の子が映っていた。


 手応えを感じた僕は、ディティールを詰めることにした。


 髪型は色んなウィッグを試したが、地毛を生かした部分ウィッグが最適だと分かった。


 また、男モードの時の髪型にも工夫をしていて、僕はもみあげを短くしていた。


 男女の違いは髪の毛の生え際にも現れていて、額やもみあげの生え際が違い、女性はもみあげが殆ど生えていなかったからだ。


 胸の膨らみは様々な女装グッズを試したが、最終的に胸の小さな女性が使う「盛りブラ」が最適だと分かった。


 それは、背の高い女性の多くが、成長ホルモンの影響で貧乳だったからだ。


 それに、女らしさの象徴とも言える胸の膨らみは、大きくし過ぎると逞しい印象となり、返って女らしさがなくなってしまう。


 女性よりもお尻が小さい男性が、胸の膨らみだけを大きくすると、プロテクターを装着したアメフト選手のような印象になってしまうのだ。


 僕も体型的には痩せていたが、胸部の骨格は男性化していて、アンダーバストと呼ばれる乳房の下の胸囲が82センチもあり、Dカップ以上のブラジャーを装着するとトップバストが1メートルを超え逞しい印象になってしまった。


 それに、バストサイズが大き過ぎると可愛いデザインの洋服が着られなくなり、それは「可愛さ」を追及している僕にとって不本意なことだった。


 また、ウエストのくびれはコルセットで再現できたが、元々痩せている僕にとって、その効果は窮屈な着け心地と引き換えにする程ではなかった。


 僕はコルセットの代わりに、ヒップパッドでお尻を大きくすることで、女らしい括れを再現することにした。


 お尻を大きくすると、相対的にウエストが細く見えるからだ。


 スタイルの良い女性の体型を詳細に観察すると、肩幅と股関節辺りの腰の幅がほぼ同じ幅で、中には肩幅よりもお尻の幅が広い女性もいた。


 僕は、この腰の形状こそが見た目の女らしさを決定づける要素だと気付き、ヒップパッドを使って女性の腰の形状を再現することにした。


 ヒップパッドの効果は絶大で、顔がメイク前の男の状態でも、ヒップパッドさえ装着すれば、見た目の印象が「男っぽい女性」に変化した。


 メイド衣装を着た僕が女らしく見えた要因も、パニエで大きく広がったスカートが、腰の形状を本物の女性に近づけてくれたからだった。


 また、お尻の膨らみは胸の膨らみと違い、どれだけ大きくしても逞しい印象にはならず、女らしさが増すだけだった。


 そして、メイクやファッションについては、美容系の専門学校でも使われているテキストを購入し、基礎からしっかりと知識をつけた。


 やがて、大学生となった僕は京都で一人暮らしを始め、女装の研究に費やす時間も増え、体毛や髭の永久脱毛や女声のボイストレーニングを始め、女性の洋服を着て外出するようになっていた…。

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