♯04 不気味の谷現象
僕は生まれた時から女の子のような見た目をしていた。
それは、僕がクォーターであることも影響していた。
僕の母方の祖父はアメリカ人で、僕には白人の血が混ざっていた。
そのせいで、僕の肌は白く目鼻立ちもはっきりしていたが、決して日本人離れしている訳ではなく、髪は黒髪で体毛も薄かった。
そんな僕は、周りから「この学校で一番の美人だねw」とか「女の子の洋服が似合いそうw」とか「将来、歌舞伎の女形になればw」とか「2丁目でNo1になれるよw」と言われていた。
男の僕にとって、その事はコンプレックスだったが「可愛い」と言われること自体は嫌なことではなく、いつしか「可愛い」という事が、僕のアイデンティティとなっていた。
しかし、高校2年の学園祭の時に、その状況は変わった…。
僕はクラスの男子数名とメイドのコスプレをすることになったのだ。
僕にとって初めての本格的な女装…僕もクラスの皆も、僕が可愛い女の子になれると信じていた。
しかし、現実は違っていた…僕の女装の完成度は他の男子たちよりも高かったが、何かが違っていた…。
ロボット工学やコンピューターグラフィックスの世界では「不気味の谷」と呼ばれる現象があった。
「不気味の谷」とは、人工物の造形を人間に近づけると、かなり似てきた段階で急激に強い違和感や嫌悪感が
人間に似てきた人工物に対し、当初は人間との類似点から親近感を感じる。
しかし、更に人間に近づけることにより、人間との相違点が目立ち始め、それが強い違和感や嫌悪感に変わる。
映画「マトリックス」でも、アクションシーンに3DCGが取り入れられていたが、当時の技術では人間の眼球の些細な動きをCGで再現できなかった為、主要キャラクターは全てサングラスで目を隠していた。
最近も、昔のゲームキャラクターであるハリネズミのソニックを主役とした映画で、その現象が発生していた。
現代のCG技術でリアルになった予告編のソニックを観た人が、拒絶反応を示したのだ。
その映画は公開日を延期して、キャラクターデザインを当時のデザインに近づけることで公開に漕ぎつけていた。
そんな「不気味の谷」現象が女装した僕にも発生していた。
僕以外の女装した男子たちは、女性との類似点から親近感を感じたが、僕は女性との相違点が目立ち、強い違和感や嫌悪感を惹起させていた。
高校生になっていた僕の体は大人の男に変化していて、女性の洋服を着たことで僕の男らしい部分が強調されていたのだ。
僕は「可愛い」というアイデンティティを失い、強いショックを受けた。
クラスの皆は僕に気を使い「可愛い」と言ってくれたが、それが本心でないことは分かった。
その日から、僕の可愛さを取り戻す為の試行錯誤が始まった…。
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