♯02 吉田早耶と麻里子さま

 彼女の名前は吉田早耶よしださやといい、通称「Kじょ」と呼ばれるK女子大学附属高等学校の2年生だった。


 K女子大学は大学院まである4年制の大学で、その附属高校は毎年のように国公立大学への合格者を輩出する進学校だった。


 そんなお堅い高校に通う早耶ちゃんは、意外にも地味な見た目をしていなかった。


 早耶ちゃんは髪を束ねていたが、前髪は丁寧に整えられていて、目元や唇には目立たない程度のメイクがほどこされていた。


 そして、緩めたネクタイをつけているブラウスは第一ボタンが外されていて、スクールベストを着用していないのでブラジャーが透けて見えていた。


 早耶ちゃんのブラジャーは胸部全体を覆うタイプだった。


 女装をする僕は、女性下着の知識も豊富だったので、それが胸を小さく見せるブラジャーだと分かった。


 どうやら早耶ちゃんは、胸が大きいことがコンプレックスのようだ。


「ところで、女の子モードの時の名前って無いんですか?」

「えっ、名前?」


 僕は女性の洋服を着て街を歩いていたが、それ以外の時間は男として生活していたので、女性でいる時の名前を考えていなかった。


「はいw 男の名前では呼びにくいのでw」

「確かに…」


 自分で自分の名前を考える…これは意外に難しく、そして、恥ずかしいことだった。


「じゃあ、私が考えてもいいですかw」

「うん、いいよw」


 僕は早耶ちゃんに名付け親になってもらうことにした。


「背が高くてスタイルもいいし、髪型も篠田麻里子さんに似てるから、麻里子でどうですか?」


 僕の身長は172センチで男としては普通の身長だが、女としては高身長の部類に属するようになっていた。


 そして、髪型については、結果的に元AKB48の篠田麻里子さんに似たショートボブになっていた。


 普段、男子大学生として生活している僕は、髪の毛を不自然に長く伸ばすことが出来ず、女装時にはウィッグが必要となった。


 しかし、フルウィッグは冬場でも汗をかく程に暑く、しかも、ウィッグネットが額に食い込むので、長時間の着用には無理があった。


 そして、何よりもテカテカとした髪のツヤが不自然だったので、僕は部分ウィッグを装着し地毛を生かす髪型にしていた。


 自分の髪にヘアクリップで留めるタイプの部分ウィッグは、地毛と馴染ませることで見た目が自然となり、女の子らしい前髪で額や眉を隠すと、僕の顔から男らしさがなくなった。


 結果的に僕の髪型は篠田麻里子さんと同じショートボブとなり、女子高生の制服を着た僕は、高い身長と痩せた体型のせいもあり、バレーやバスケをしている運動部の女子に見えた。


「うん、いいよw」

「やった! 私、幼稚園の頃、篠田麻里子さんのファンだったんですよw」

「そうなんだw」

「じゃあ、麻里子さまって呼びますねw」

「えっ…」


 篠田麻里子さんはAKB48の中では年長だったので、年下のメンバーから「麻里子さま」と呼ばれていて、背が高く大人っぽい雰囲気も僕と似ていた。


 しかし、僕が「麻里子さま」という篠田麻里子さんのニックネームまで継承することになるなんて…。

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