17歳 4

 結局地方予選から全国までは行けなかったけれど、審査員からは概ね高評価をもらった。ボーカルは特別賞までもらった。僕は純粋な賞賛の気持ちで「おめでとう」と笑ったけれど、ひなたは何だかよそよそしく「ありがとう」と呟くだけだった。

 それから一ヶ月ほど、そのよそよそしさは続いた。確かに、裸を見られた同級生の男子に会うのは気まずいだろうけど、それでもその長さは異常だった。「君らしくないよ」と僕が言っても、「私もそう思う。なんだろうね、これ」と弱々しく呟くだけだった。

 しかし、ある日を境に彼女は急に元に戻った。いやむしろ、吹っ切れたように前より積極的になった。駅前で路上演奏しようよ、と言いだしたのもこの頃だった。とにかく彼女は、個別練習よりもふたりで演奏することに拘りはじめた。


 それからは特に、大きなことはなかったように思う。週末に駅前で演奏をして、ときどきもらえる拍手や応援の声に喜んで。僕たちは三年生になって、もう同じようにはできなくなった。僕は東京の大学に行きたかったのだ。受験勉強をしないといけないし、僕が東京にいってしまったらもう僕たちはふたりでは活動できない。就職で地元に戻ってくるかもしれないけど、それまでひなたを待たせるわけにはいかなかった。だから僕たちは、ひとつ約束をして別れた。僕は作曲を、ひなたは歌を、大学でも続けよう。そしてお互い大成して、また音楽業界で会おう。

「私のこと、忘れないでね」

ゆびきりげんまんしたあと、彼女はそう言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る